バー遺伝子(KRAS, p53, SMAD4)変異を有する発がんモデル細胞株の樹立を進めている。現在、KRAS変異、KRAS+p53変異、KRAS+SMAD4変異、KRAS+p53+SMAD4変異を有する株を樹立した。これらを免疫不全マウスに移植し、膵がんモデルとして用いることができることを実証した。今後、担がんモデルにおける血中miRNA変化が引き起こされるメカニズムを探る。 さらに我々は細胞外小胞内に蛍光タンパク質を輸送するレポーターシステムを活用することにより、細胞間の細胞外小胞伝達を可視化することでその機能を紐解いていく研究開発を継続している。本学に新たに導入されたNanotracking analysis (Nanosight)やin vivo imaging system (IVIS)を活用し、実験系の確立に成功しつつある。今後、さらなる基盤技術開発を継続すると同時に、肝硬変に対するエクソソーム治療の開発など様々な応用に着手している。 4.若齢期の食・運動習慣が成熟期の肥満、糖・脂質代謝へ及ぼすエピジェネティクス・抗老化効果 これまで我々は、厳格な食事療法、運動療法、薬物療法の実施によって、実験的環境下では肥満症やメタボリックシンドロームは改善可能であることを報告してきた。しかし、実際の臨床現場では肥満後に長期に亘って適正体重を達成・維持できる者は少なく、多くの者が治療抵抗性を示している。また我々の先行研究では、高脂肪食摂取による若齢期の肥満は、その後の食生活の改善によっても完全には是正されず、体脂肪量、血糖、血清脂質がいずれも高値となること見出した。また過食性肥満モデルラットに対する若齢期の運動習慣がその後の成熟期・老齢期においても低めの体重を維持する現象を報告した。そこで若齢期の高脂肪食摂取および運動が成熟期の白色脂肪組織に及ぼす長期的効果を明らかにするために、約3万個の遺伝子発現を同時に測定するDNAマイクロアレイ解析を実施した。 その結果、若齢期における運動が成熟期の白色脂肪組織中に発現するPGC-1αやUCP-1、β3アドレナリン受容体などの熱産生系遺伝子を長期間変化させる現象が観察され、一部の遺伝子についてはDNAメチル化によるエピジェネティクス的機序の関与が示唆された。これらの遺伝子は、通常、骨格筋や褐色脂肪組織などの熱産生組織で強く発現が誘導される遺伝子であることから、今後、若齢期の肥満・運動により長期に亘って糖・脂質代謝に影響する骨格筋・褐色脂肪組織などのエネルギー代謝関連遺伝子の変化について検討を行っている。また老化関連遺伝子として知られているp53やp16の遺伝子発現が,若齢期の運動によって長期に亘って低下する可能性が示唆されたことから機序の解明を試みている。本年度は特にウエスタンブロッティングやバイサルファイトシーエンスによる評価を実施した。更に高齢期からの摂餌制限、高脂肪食摂取や豊かな環境(Environmental Enrichment)での飼育が脂肪組織やその他の組織における加齢性変化や寿命に与える影響についても検討を行っている。 5.肥満モデル動物を用いた抗肥満療法と抗老化効果に関する検討 脂肪細胞からは様々な生理活性物質(アディポサイトカイン)が分泌され、生活習慣病の発症に強く関与することが知られている。そこで本研究では、肥満モデル動物や脂肪培養細胞に対して抗肥満療法(食事療法・運動療法・薬物療法(サプリメントを含む))などの介入を実施し、抗肥満効果や生活習慣病の予防・治療の効果とその機序について検討を行った。 その結果、食事療法および運動療法では顕著な抗肥満効果が観察され、糖・脂質代謝などの生活習慣病関連因子やアディポサイトカイン分泌にも著明な改善効果がみられた。またアスタキサンチンやアミノグアニジン、エピジェネティクス治療薬のひとつであるDNAメチル化阻害薬(5-AZA-dc)などの投与によって肥満やそれに伴う病態が一部の指標において改善する傾向が観察されたが、更に詳細な検4 薬物治療学講座 100 薬物治療学講座
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