長谷は本演習全体の取りまとめと外部講師による演習のサポートを行った。高橋は演習のサポートとともに、課題レポートの作成と成績評価を担当した。 免疫代謝学特論[博士前期課程、春学期、1単位・選択] 木村(1コマ)、高橋(1コマ) 木村は、免疫学研究における、最新の組織学的解析の紹介と実験データ、データ解析、解釈の実例を説明し、実際の研究に役立つことを目指して講義を行った。高橋は、腸管とその付属免疫器官の構造について説明すると共に、腸管免疫応答と腸内細菌叢について講義を行った。 研究概要 当講座では腸内細菌や食事因子による免疫系・代謝系の制御機構、ならびに、粘膜免疫系の構築における頭部粘膜組織におけるM細胞の役割について研究を行った。その結果、以下に示す新たな知見が得られた。 1. 母体腸内細菌が胎児発達に与える影響の解析 無菌マウスの胎児は、SPFマウスの胎児と比較して発達遅延の症状を示す。一方、無菌マウスに腸内細菌を定着させると胎児の発達は正常化したことから、無菌マウスにおける胎児発達遅延は可逆的な現象であることが判明した。胎児発達に寄与する因子の特定と、母体腸管由来因子による胎児発達促進機構の解明に向けて、胎生5.5日齢から胎生18.5日齢までの無菌胎児と対照群胎児の網羅的代謝物解析と、胎生12.5日齢と15.5日齢の胎児と胎盤の空間トランスクリプトーム解析を実施した。その結果、グルタチオン、トリプトファン、分岐鎖アミノ酸とその代謝物、ビタミン類、ニコチンアミドジヌクレオチドなどが無菌胎児において低下していることが観察された。さらに空間トランスクリプトームの結果から、胎児期に発現する特定のアミノ酸トランスポーターの発現が無菌胎児組織で低下することも判明した。 一方、母体腸内細菌が子宮や脱落膜といった母子境界面の免疫系に与える影響を調べた結果、これまでに無菌状態ではγδT細胞が著しく減少することを見出している。そこで、γδT細胞誘導細菌を絞り込むため、異なるスペクトラムを持つ種々の抗生物質を雌性マウスに投与した後、交配させ子宮免疫系を解析したところ、バンコマイシン非感受性細菌群の中にγδT細胞誘導細菌が存在することが判明した。さらに、ショットガンメタゲノム解析により候補細菌の絞り込みを行った。 2. 呼吸器粘膜におけるM細胞の分化機構と免疫応答における役割の解明 呼吸器はガス交換により生命活動を維持するために重要である。空気中にはウイルス、黄砂、花粉などの微粒子が存在し、吸気とともに気管・気管支を取って肺へと達する。呼吸器における感染症は深刻な症状を呈し、伝播も早くパンデミックによる社会的影響も大きい。呼吸器粘膜上皮における上皮細胞系統には未解明な部分も多い。近年までM細胞の存在も不明であったが、当講座では分子マーカーを用いて呼吸器におけるM細胞の存在を確認している。さらに、近年の研究から分化機構を明らかにすることに成功した。気管・気管支では定常状態ではごく少数のM細胞が存在するが、インフルエンザ感染などにより後天的にリンパ小節が誘導される。それとともにM細胞の増加が認められた。このときM細胞の前駆細胞となるのが、粘液などを分泌するクラブ細胞であること、感染時にはリンパ球が発現するTNFスーパーファミリーのRANKLがクラブ細胞からM細胞への分化を促進することを明ら生化学講座 3 生化学講座 109
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