I. 教育について 自己点検・評価 かにした。この呼吸器M細胞の分化機構の解明によって、呼吸器特異的M細胞欠損マウスの作成に成功している。2022年度には予備的な知見ではあるが、M細胞欠損によりインフルエンザ感染による体重減少が悪化するという結果が得られている。これは呼吸器においてM細胞が生体防御に貢献している可能性を示す。今後、そのメカニズムを細胞、分子レベルで明らかにしていく。 3. 濾胞性T細胞の分化誘導機構の解明 腸管粘膜は、体全体を覆う皮膚の約200倍もの表面積を有しており、食事由来抗原や30兆個にも及ぶ腸内共生微生物と常に対峙している。さらにSARS-CoV2のような腸管を介しても感染する病原微生物の脅威にも曝されている。このため、腸管には二次リンパ組織である小腸パイエル板を代表とする、体内最大の免疫システムが構築されておりこれらに対応している。この腸管免疫システムにおける液性免疫は、免疫グロブリンA (IgA)応答が主体であり、その司令塔として機能するのが濾胞性ヘルパーT(Tfh)細胞である。最近の我々の研究から、小腸パイエル板に常時多数存在すると考えられていたTfh細胞は、食餌成分の違いで大きく増減する事を明らかにした。特に粗精製物が多く含まれる飼料がTfh細胞の分化誘導に関与していることを見出した。さらに、Tfh細胞数に比例して腸管腔に分泌されるIgA濃度も大きく増減する。また、食餌成分の違いで腸内細菌叢が大きく異なることから、腸内細菌がTfh細胞の分化に重要であるとの仮説の下で実験を実施し、特定の腸内細菌種を定着させることでTfh細胞が増加することを見出した。現在、腸内細菌と食事成分を組み合わせることで、効率的にTfh細胞を増加させる方法を開発することを目指している。これは腸管を介して感染する病原微生物に対するワクチンの開発にも寄与すると期待される。 Tfh細胞のカウンターパートとして、Tfh細胞を抑制する細胞である濾胞制御性T (Tfr)細胞の存在が知られている。この細胞は、Tfh細胞による自己免疫応答やアレルギー免疫応答を抑制する機能がある。しかしながら、分化メカニズムには不明な点が多く残されており、未だ全体像が明らかになっていない。その原因の一つとして、Tfr細胞の分化誘導培養系が存在しなかったことが挙げられる。Tfr細胞の分化メカニズムの全体像を明らかにすることは、自己抗体やIgE産生を制御する免疫学的機構を明らかにする上で重要であり、Tfr細胞を標的とする自己免疫疾患やアレルギー疾患の治療薬の開発の上で必須である。そこで、生化学講座で開発したTfr細胞の分化誘導培養系を用いて、化合物を評価し、その結果を基にケミカルバイオロジーの手法でTfr細胞の分化メカニズムの全体像を解決したいと考えている。さらにTfr細胞の自己免疫疾患発症抑制における役割に着目し、自己免疫疾患やアレルギー疾患の新規治療薬の開発を目指している。 小腸パイエル板には、ヘルパーT細胞に加えてγδT細胞も存在すること。中でも特にIL-17産生型のγδT細胞であるγδT17細胞は腸内細菌が存在しない無菌マウスでは消失する事が報告されている。これはγδT17細胞の分化誘導に腸内細菌が必須であることを示唆するが、どのような腸内細菌種が重要であるのか不明である。さらに、γδT17細胞はペプチド抗原を認識しないと考えられているので、腸内細菌由来のどのような物質を認識しているのかも不明である。そこで、種々の抗生剤を投与することで、特定の腸内細菌を除去することで、γδT17細胞の分化に重要と考えられる腸内細菌種を同定した。現在同定した菌の抗原を同定を目指して研究を継続している。 4 生化学講座 110 生化学講座
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