variants の影響を in silico により明らかにした。その結果、CYP3A4 基質 midazolam の血漿中濃度-時間曲線下面積は、野生型では VER により 3.8 倍上昇したが、変異型 (CYP3A4.16) では 1.2 倍であり、AUC 上昇率はvariants により異なった。よって、CYP3A4 variants 間阻害キネティクスの違いは、臨床的に DDI の程度に個人間差をもたらす要因となることが示唆された。 なお、本研究内容については、医療薬学フォーラム 2022 (2022 年 7 月) において報告した。 Ⅲ 飲料中天然物の OATP1A2 阻害特性に及ぼす遺伝子多型の影響 有機アニオン輸送ポリペプチド (OATP)1A2は fexofenadine (FEX) などの各種薬物の消化管吸収を担っている。また、グレープフルーツジュース (GFJ) や緑茶には野生型 OATP1A2の機能を阻害する成分が含まれる。一方、OATP1A2 にはアミノ酸置換を伴う遺伝的 variants が存在するが、variants 間の阻害活性の差異は不明である。本研究では、柑橘由来フラボノイド 4 種、緑茶成分 4 種および紅茶成分 4 種について、OATP1A2 variants (野生型, I13T, N128Y, A187T, T668S) 発現 HEK293 細胞株への FEX 取り込みに対する阻害強度と阻害様式を評価した。その結果、柑橘由来フラボノイド 1 種、緑茶成分 2 種を除き、各成分は OATP1A2 variants の活性を濃度依存的に阻害した。それらの阻害強度は遺伝的変異の影響を受けたが、影響の大小は阻害剤間でも異なっていた。阻害様式は一部を除き競合阻害であった。以上より、OATP1A2 を介した柑橘果汁および茶飲料との薬物相互作用の強度には、OATP1A2の遺伝子型が影響する可能性が示唆された。 なお、本研究内容の一部については、医療薬学フォーラム 2022 (2022 年 7 月) において報告した。 Ⅳ トランスポーター分子への特異的結合キネティクス解析 当研究室では有機アニオン輸送ポリペプチド (OATP)1A2 および 2B1 過剰発現 HEK293 細胞株を用いて基質取り込みを評価してきた。その際、OATPs 過剰発現細胞への基質取り込みの経時推移から内挿した時間 0 分でのみかけの取り込み容積が空ベクター導入細胞よりも高いことから、これが OATPs 分子への特異的結合を反映している可能性が考えられた。そこで本研究では、OATPs 過剰発現細胞における基質輸送の初期段階から、基質の特異的結合キネティクスが評価可能であるかを検討した。その結果、OATP1A2 介在性 estrone-3-sulfate (E3S) 取り込みにおいて、0 分でのみかけの取り込み量として評価した初期結合量 (B) は濃度依存的に増加し、初期取り込みクリアランスは減少した。結合のミカエリス定数は取り込みのミカエリス定数と近い値であった。よって、OATP1A2 分子への E3S の初期結合は飽和があり、その親和性は輸送の親和性を反映している可能性が示された。一方、OATP1A2 介在性 fexofenadine および OATP2B1 介在性 E3S 輸送における B は小さく、その濃度依存性も見られなかった。以上より、OATPs による初期結合キネティクスは、分子種または基質間で異なり、必ずしも細胞内への基質取り込みのキネティクスとは関連しないことが示唆された。 Ⅴ クランベリージュース中のフラボノイド配糖体による OATPs 阻害活性の定量的解析 有機アニオン輸送ポリペプチド (OATP)1A2 および 2B1は、小腸において fexofenadine (FEX) などの吸収を担っている。クランベリージュース(CJ) は in vitro において両 OATP の基質輸送を阻害し、その阻害成分としてフラボノイド配糖体の avicularin が同定されている。しかし、CJ 中の avicularin 含量は CJ の阻害活性を説明するには十分ではないことから、本研究では in vitro において、CJ に含まれる他のフラボノイド類 (quercetin およびその配糖体 avicularin, hyperoside, ■■■■■■■■■ 3 臨床薬物動態学講座 119
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