慶應義塾大学薬学部 教育・研究年報2022
125/356

■■■■■■■■■ 5 臨床薬物動態学講座 121過性に対する UFB の影響を検討した。その結果、傍細胞経路を介して透過する polyethylene glycol のみかけの透過係数 (Papp) は UFB の影響を受けなかった。また、先行研究結果と同様、経細胞経路マーカーである propranolol の Papp も UFB による影響を受けなかった。したがって、UFB の急性処置は Caco-2 細胞単層膜の受動拡散に影響を与えないことが示された。 なお、本研究は、本学理工学部との共同研究にて実施した。また、本研究内容については、日本薬学会第 143 年会 (2023 年 3 月)において報告した。 Ⅸ ラット肝、腎、小腸組織におけるトランスポーター絶対発現量解析と irinotecan 曝露の影響 当研究室ではこれまでに、ラットに irinotecan を投与すると小腸 P 糖タンパク質 (P-gp) 発現量が増大することを明らかにしたが、肝や腎における報告は限られている。また、ラット各臓器における各種トランスポーターの発現量自体も十分には明らかになっていない。本研究では、標的絶対定量的プロテオミクス (QTAP) 法を用いて、ラット肝臓、腎臓、小腸組織の P-gp、Bcrp、Mrp2、Oatp1b2、Bsep、Asbt、Glut1 タンパク質絶対発現量を解析するとともに、それらの発現量に及ぼす irinotecan 曝露の影響を評価した。その結果、ラット各臓器における各種トランスポータータンパク質の絶対発現量を網羅的に明らかにすることができた。また、irinotecan 曝露により、肝臓では P-gp および Mrp2 がそれぞれ 2 倍、0.7 倍に有意に変動した一方で、腎臓ではいずれも有意な変動はみられなかった。小腸では P-gp、Mrp2、Glut1 発現量が 2 ~ 3 倍に増加した一方、小腸下部の Bcrp、Asbt 発現量は 0.5 倍に有意に減少した。よって、irinotecan 曝露時は、肝臓および小腸における薬物の動態変動に特に注意が必要であることが示唆された。本研究は各トランスポーター基質薬のみならず、胆汁酸など内因性物質の体内動態の変動を理解するうえでも重要な知見を提供すると考える。 なお、本研究内容については、日本薬学会第 143 年会 (2023 年 3 月) において報告した。 Ⅹ Axitinib と curcumin の相互作用に関する in vivo 評価 チロシンキナーゼ阻害薬の axitinib (AXI) は、P 糖タンパク質 (P-gp) および breast cancer resistance protein (BCRP) の基質である。また、ウコンに含まれる curcumin (CUR) は P-gp および BCRP 阻害作用を有する。当研究室ではこれまでに、ラット小腸反転腸管において、CUR が AXI の吸収を増大させることを見出した。そこで本研究では、ラットを用いて AXI 経口または静脈内投与後の体内動態に対する CUR の影響を評価した。その結果、AXI 経口投与時の最高血漿中濃度は CUR 併用により単独時の 0.25 倍に低下した一方で、血漿中濃度-時間曲線下面積およびバイオアベイラビリティは上昇傾向を示した。また、CUR 併用により最高血漿中濃度到達時間は延長し、平均吸収時間は 1.6 倍に有意に延長した。したがって、in vivo においては、CUR は AXI の消化管吸収を遅延させるが、吸収量に対する影響は小さいことが明らかになった。 なお、本研究内容については、日本薬学会第 143 年会 (2023 年 3 月)において報告した。 Ⅺ Ciprofloxacin 併用による aluminum 吸収変動に関する ex vivo 評価 制酸剤などに含まれる aluminum (Al) は、ニューキノロン系抗菌薬 (NQs) とキレートを形成し、その消化管吸収を低下させる。一方、当研究室ではこれまでに、消化管吸収モデル細胞における Al イオン (Al3+) の in vitro 細胞膜透過性が、NQs により亢進する可能性を見出した。しかし、in vitro 試験では細胞培養容器への Al3+ の吸着があり、Al3+ 透過性亢進を定量的に評価することが困難であっ

元のページ  ../index.html#125

このブックを見る