慶應義塾大学薬学部 教育・研究年報2022
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Ⅰ.教育について Ⅱ.研究について 自己点検・評価 た。そこで本研究では、消化管吸収をより直接的に評価できる ex vivo 反転腸管法を用いて、Al3+ 吸収に対する ciprofloxacin (CPFX) の影響を定量的に評価した。具体的には、SD系雄性ラットから摘出した小腸を用いて反転腸管を作製し、100 µM Al 単独または300µM CPFX 併用下における反転腸管内への Al3+ 透過量を経時的に評価した。その結果、Al3+ 透過量は CPFX 併用により単独時の 125 倍に増大した。一方、Al 単独および CPFX 併用時の緩衝液中 Al3+ 濃度は、それぞれ 3.5、130 µM程度であった。よって、CPFX は Al の溶解性を増大させると同時に Al3+ の吸収クリアランスを増大させることにより、Al3+ の消化管吸収量を増大させることが示唆された。 本年度は薬学科における実務実習事前学習において、講義および実習を行った。実習においては、依然として COVID-19 収束が見通せない状況下において、十分な感染対策をとりつつ実施した。特に来局患者および入院患者への服薬指導に関しては、ビデオ面接なども活用して、制約のある中で可能な限りコミュニケーション能力の養成を行った。服薬指導における各練習では、一般市民から養成した模擬患者にも遠隔で実習に協力してもらうことで、対面とは異なる環境での服薬指導を提供できた。本年度の OSCE においては、全学生がコミュニケーションに関する領域の試験に合格できたことから、本実習は十分に目的を達成できたと考えられる。 講座配属学生に対する教育としては、学生の研究進捗状況を週に 1 回の少人数ミーティングで詳細に確認し指導を行った。ここでは、研究活動の魅力についても伝えるよう十分に留意した。その結果、学生 8 名が学士、2 名が修士の学位を修得することができた。 また週 1 回開催される講座セミナーでは、研究進捗状況の報告に加えて、二種類の教育的セミナーを行った。その一つである Drug Monograph Seminar は、医薬品の情報を正しく理解し、医薬品を評価するための技能と能力を向上させることを目的に開催した。具体的には、特徴のある新医薬品を題材に、原著論文やインタビューフォームなどの各種医薬品情報を収集し、その内容を解釈し、臨床薬学的視点から要約して発表、討論を行うというものである。本年度は、2 型糖尿病治療薬ツイミーグ®錠、片頭痛治療薬レイボー®錠などを取り上げた。 第二に、学術論文の読解力を養うための文献 (英文) ゼミを開催した。本ゼミは、in vitro からヒト臨床試験、in silico に至るまで幅広い最新の英文学術誌を取り上げ、読解することで、今後彼らが遭遇するであろう様々な問題を、俯瞰的な知識により解決できる能力を身につけることも併せて目的とした。取り上げた内容が多岐に渡ったため、学生はその読解に苦労したようであるが、自らの研究課題以外についても知識を習得したことで、自らの研究課題の位置づけやその意義について、より一層理解が深まったと考えられる。 以上、本講座は、学部全体としての教育に対して十分な貢献を行うとともに、配属学生に対しても極めて質の高い教育を提供することができたと考える。 2022 年度は、研究室が芝キャンパスから信濃町キャンパスに移転し、研究室の面積も従前の 1/2 程度に縮小された。これにもかかわらず、2022 年度は日本薬学会、日本医療薬学会、日本薬物動態学会、6 ■■■■■■■■■ 122 臨床薬物動態学講座

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