慶應義塾大学薬学部 教育・研究年報2022
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固形癌骨転移患者を対象としたデノスマブ投与に伴うGrade2以上の低Ca血症発症リスク予測法の検討  ■医薬品情報学講座■128 医薬品情報学講座大学院 医薬品開発規制学特論■■1■■■■■■■■■ ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ 薬剤疫学・データサイエンス特論■■1■■■■■■■■■ ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ 研究概要 (医療薬学フォーラム2022にてポスター発表,Biol pharm bull誌に採録) 医薬品情報学講座では,情報学を基盤とした学際的なアプローチにより,医療や地域社会における諸課題の解決に取り組んでいる.特に,薬学的視座での疾患予防・治療の個別最適化と医療安全の推進を中心に据えており,リアルワールド(医療現場,地域や生活の場)における“情報”(= 医療・健康情報)の収集, 解析・評価, 検証(ラボワークも含む),それらを通じた新規のエビデンス・システムの創出までを目指している. ■■■■2022年度に取り組んだ主な研究■■■■■■■■■ デノスマブはRANKL(receptor activator for nuclear factor-κB ligand) を特異的に阻害し,破骨細胞による骨吸収を抑制するヒト型IgG2 モノクローナル抗体製剤であるが,重篤な低Ca血症に関するブルーレターが2012年9月に発出され,臨床においてデノスマブによる低Ca血症は重篤な副作用として認知されるようになった.そこで当講座では,固形癌骨転移患者で天然型ビタミンD/Ca配合剤併用下においてデノスマブを投与された患者を対象に,Grade2以上の低Ca血症発症リスク予測モデルを構築した(Ikegami et al. J Clin Pharmacol, 2022).一方で,併用されるビタミンD製剤の種類(天然型や活性型)によって低Ca血症発症リスクが異なるかは未知であることから,その種類を考慮したデノスマブ投与による低Ca血症発症リスク予測法の構築が必要と考えた.Medical Data Vision社の診療情報データベースに収載され,2012年4月から2020年5月にデノスマブを投与した患者を対象とした.初回投与時に併用したビタミンDの種類(天然型/活性型)等の患者背景を収集し,ビタミンDの種類毎に低Ca血症発症者/非発症者の患者背景を単変量解析により比較した.天然群においてはp<0.3かつ臨床的有意性のある変数を用いて多変量ロジスティック回帰モデルを構築した.天然群と活性群の低Ca血症発症者は,それぞれ124名(1315名中), 14名(106名中)であった.両群ともにALPの低Ca血症発症への関連が示唆された.活性群では,腎機能の低Ca血症発症への関連が示唆された.天然群に対する予測モデルでは,性別,臨床検査値(Ca,Alb,ALP),診断歴(骨粗鬆症,乳癌,胃癌),薬剤(プロトンポンプインヒビター,ゾレドロン酸)を変数としたモデルが構築され,感度83%,特異度81%と高性能であった.デノスマブ投与時には併用するビタミンDの種類を考慮した副作用リスク管理が重要である.

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