慶應義塾大学薬学部 教育・研究年報2022
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(Medinfo2023にて口頭発表予定,Scientific Reports 誌に採録予定) 濁音・半濁音が薬名類似に与える影響の検討 薬局におけるリフィル処方箋への対応に関する実態と薬剤師の意識 – 横断的質問紙調査 – 自然言語処理を用いた患者ブログからの有害事象シグナル抽出手法の構築 抗がん剤の治療成績を向上するために,有害事象の管理が極めて重要となる.しかし,患者の主観症状をシグナルとする有害事象の発現は,臨床現場において見逃されることがあると報告されている.そのため,抗がん剤治療中に起きる有害事象シグナルを漏れなくモニタリングできる支援ツールは,有害事象への早期介入・重症化予防,そして抗がん剤治療の長期継続に寄与できる可能性がある.本研究では,がん患者自身が自由記述した文章から有害事象シグナルを検出するツールとして,自然言語処理技術を用いた抽出器を構築した.さらに,がん患者の日常生活への支障度に応じて有害事象シグナルを分類することで,治療介入の必要性が高い事象に焦点を当てることを目指した.日本語で記述された乳がん患者ブログ2,272記事をデータソースとして,前処理及びアノテーションを行った結果,日常生活への支障を記述する有害事象シグナル191記事と,日常生活への支障を記述しない有害事象シグナル702記事を特定した.これらのデータを基に,3つの深層学習モデル(BERT,ELECTRA,T5)を使って有害事象シグナルの抽出器を構築した.その結果,記事単位の抽出タスクにおいて,T5は日常生活への支障を含む有害事象シグナル及び全ての有害事象シグナルの両方で最も高いF1スコアを示した(それぞれ0.557と0.811).最も頻度の高かった有害事象シグナルの種類は,「痛みまたはしびれ」,「疲労」,「吐き気」であった.この抽出器は,有害事象シグナルの早期検出をサポートすることで,医療者による有害事象の管理をより強化するスキームとなり得る. 薬剤取り違えの防止は健康被害を回避するうえで重要であり,なかでも薬名類似性が誘発する取り違えは大きな課題である.本邦では新薬承認申請前に既存医薬品との類似名称を回避するために薬名の類似性評価が行われているが,既存の評価方法では濁音及び半濁音と清音の違い(以下,濁音・半濁音違い)が主観的類似度に与える影響は検討されておらず,濁音・半濁音は清音と同様,または全く別の文字として扱われてきた.そこで本研究では,心理学実験により薬名間の濁音・半濁音違いが薬名の主観的類似度に及ぼす影響を定量的に評価することを目的とした. 医学系の専門知識を有さない20-59歳の者を対象とした心理学実験を行った.「清音化した後の先頭共通文字数(=先頭共通文字数;0〜3)」と「清音化された先頭共通文字の数(=濁音・半濁音違いの数;0〜3)」から設定した10群に対して薬名ペアを6組ずつ作成し(全60組),すべての薬名ペアの主観的類似度をVASスケール(0〜5)上に記入してもらい,各群での主観的類似度を比較した.濁音・半濁音を含まない薬名ペアでは,先頭共通文字数が増えるほど主観的類似度が高値を示した.先頭共通文字(1~3文字)が全て濁音・半濁音違いの薬名ペアでは,先頭共通文字数が0の薬名ペアと比較して主観的類似度が有意に高かった.一方,共通文字中に濁音・半濁音違いがない場合と比較して濁音・半濁音違いがある場合,主観的類似度は有意に低下した.本結果から,濁音・半濁音違いが主観的類似度に及ぼす影響が示された.本結果に基づき,濁音・半濁音違いを定量的に考慮した薬名類似指標の提案が可能になることが期待される. リフィル処方箋の制度は,一定期間内に処方箋を反復利用できる仕組みであり,薬剤師は,リフィル処方箋による調剤にあたり,患者の服薬状況等の確認を行い,リフィル処方箋による調剤が適切であるかを判断する必要がある.本研究ではリフィル処方箋応需に係る薬局の体制や薬剤師の意識を明らかにすることを目的とし(日本薬学会第143年会にて口頭発表,学生優秀発表賞受賞) 医薬品情報学講座■■ 医薬品情報学講座 129

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