薬効解析学講座において本年度行った研究のうち主なものについて記載した。 Ⅰ.抗菌薬の適正使用に関する臨床研究 MRSA菌血症患者に対するバンコマイシン(VCM)治療において、VCMの最小発育阻止濃度(MIC)= 1.5、2.0μg/mLの株は、≤1 μg/mL と比較し予後不良であることが報告されている。そのような症例におけるダプトマイシン(DAP)の有用性について検討した。MIC>1 μg/mL株が原因のMRSA菌血症を対象としてVCMとDAPで比較した。有効性評価では、全死亡および治療成功を検討し、さらに感染源によるリスクを低、中、高に分類し(血管内カテーテル関連性など [致死率<10%], 骨関節など [10-20%], 心内膜炎など [≧20%])、治療成功率を比較した。また、安全性評価では、腎障害、クレアチンホスホキナーゼ(CPK)上昇について比較した。有効性解析には7試験、安全性解析には4試験を組み入れた。有効性評価では、DAP群は、VCM群と比較して、死亡率が有意に低く(オッズ比 [OR] 0.53、 95%信頼区間 [CI] 0.29-0.98, p = 0.04)、治療成功率が有意に高かった(OR 2.20、95%CI 1.63-2.96, p < 0.001)。また、DAP群は中リスク感染においてVCM群よりも有意に高い治療成功率を示し(OR 4.40、95% CI 2.06-9.40, p < 0.001)、高リスク感染では高い治療成功傾向を示した(OR 2.22, 95% CI 0.98–5.04, p = 0.06)。安全性評価では、DAP群はCPK上昇リスクが示された(OR 5.13, 95% CI 1.08–24.37, p = 0.04)。VCMのMIC>1 μg/mLによるMRSA菌血症において、骨関節感染や心内膜炎などが原因の場合、DAPによる初期治療が推奨される。 研究概要 薬効解析学講座 3 薬効解析学講座 1391)ダプトマイシンの標準用量と高用量に関する有効性と安全性の検討:システマティックレビュー&メタ解析 ダプトマイシン(DAP)は、皮膚・軟部組織感染症ならびに菌血症・感染性心内膜炎の治療において、4mg/kgおよび6mg/kgの標準用量で用いられる。一方で、近年MRSAを含むグラム陽性球菌による複雑性感染症に対しては、DAPの高用量投与が推奨されている。本研究では、DAPの標準用量と高用量に関する有効性及び安全性を検討した。2022年8月8日時点で、PubMed、Web of Science、Cochrane Library、ClinicalTrials.govにて検索を行った。菌血症、複雑性菌血症、感染性心内膜炎、骨髄炎、異物・人工関節感染症に対する治療成功率を主要評価項目として、標準用量(SD:4–6mg/kg)と高用量(HD;>6mg/kg)を比較した。また、これらの疾患の患者を対象に、SDとHD2(≥8mg/kg)におけるDAPの治療成功率を副次的評価として比較した。安全性評価としては、クレアチンホスホキナーゼ(CPK)上昇の発生率を検討した。複雑性菌血症および感染性心内膜炎患者における治療成功率の検討では、SD群はHD群よりも有意に治療成功率が低く(オッズ比[OR]0.48、95%信頼区間[CI]0.30–0.76、OR 0.50、95%CI 0.30–0.82)、HD2群との比較でも有意に低かった(OR 0.38、95%CI 0.21–0.69、OR 0.30、95% CI 0.15–0.60)。骨髄炎や異物・人工関節感染症の治療成功率ではSD群とHD群およびHD2 群で有意な差は認めなかった。CPK上昇の発生率は、SD群で有意に低かった(OR 0.42、95% CI 0.27–0.66)。複雑性菌血症および感染性心内膜炎の患者において、DAPのSDはHD よりも有意に治療成功率が低下することが示された。 2)バンコマイシンの最小発育阻止濃度(MIC)>1 μg/mL株によるMRSA菌血症に対するダプトマイシンの有効性:システマティックレビュー&メタ解析
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