慶應義塾大学薬学部 教育・研究年報2022
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3)Clostridioides difficile感染症に対するfidaxomicin及びvancomycinの有効性・安全性評価: システマティックレビュー&メタ解析 Fidaxomicin(FDX)はvancomycin(VCM)に代わる新たなClostridioides difficile感染症(CDI)治療薬として期待されている。そこで本研究ではFDXの適正使用に必要なエビデンスを構築することを目的としてCDIに対するFDXとVCMの有効性及び安全性をシステマティックレビュー&メタ解析により評価した。2021年10月15日までの研究文献を対象とし4つの電子データベース(PubMed、Cochrane Library、Web of Science、ClinicalTrials.gov)からCDI患者においてFDXとVCMの有効性及び安全性を評価したランダム化比較試験(RCT)を抽出した。治癒維持率を1次エンドポイントとし、臨床治癒率、再発率、及び有害事象発現率を2次エンドポイントとして設定した。抽出したRCTにおいて報告されたデータからMantel-Haenszel法・変量効果モデルを使用し、リスク比(RR)及び95%信頼区間(CI)を計算した。6つのRCT(n = 1390)が解析に組み込まれた。VCMに比べてFDXは有意に高い治癒維持率を達成した(RR = 1.18、95%CI = 1.09–1.26)。さらに臨床治癒率はFDXとVCMで有意な差はなかった(RR = 1.02、95%CI = 0.98–1.06)。再発率はVCMに比べFDXで有意に低かった(RR = 0.59、95%CI = 0.47–0.75)。有害事象発現率はFDXとVCMで有意な差はなかった(RR = 1.03、95%CI = 0.96–1.11)。さらにサブグループ解析においてFDXの有意に高い治癒維持率は非重症例、初発例、非BI/NAP1/027株感染例、及び抗菌薬非併用例で達成された。CDI治療でFDXはVCMに比べ有意に高い治癒維持率及び低い再発率を達成した。そして臨床治癒率及び有害事象発現率はVCMと有意な差はなかった。FDXはCDI治療薬としてVCMと同等もしくはそれ以上の有用性が期待できることが明らかとなった。 Ⅱ.抗菌薬のin vitro、in vivo pharmacokinetics/pharmacodynamics (PK/PD) 評価 1)マウス大腿部MRSAまたはVRE感染モデルを用いたテジゾリドのPK/PD評価 本研究では、MRSAおよびバンコマイシン耐性腸球菌 (VRE) に対するテジゾリドの最適なpharmacokinetics (PK)/pharmacodynamics (PD) パラメータ値を明らかにすることを目的とし、マウス大腿部MRSAまたはVRE感染モデルを用いてテジゾリドのPK/PD評価を実施した。【方法】MRSA、VREに対する最小発育阻止濃度 (MIC) 測定および Time‐kill試験、post-antibiotic effect (PAE) の測定を行った。タンパク結合率は限外濾過法で算出した。シクロホスファミド誘発好中球減少マウスを作成しマウス大腿部VRE感染モデルを作成した。またテジゾリドのPKパラメータは、テジゾリドを単回腹腔内投与することで算出した。PKパラメータおよびMICを用いて各種PK/PDパラメータを算出し、テジゾリドの抗菌活性との関係性を評価した。MRSAおよびVREに対するテジゾリドのMICはいずれも0.5 µg/mLであった。さらにMRSAおよびVREに対してテジゾリドは時間依存的な抗菌活性を示していることが示された。VREに対するテジゾリドのPAE (2.39 h) はMRSA (0.99 h) と比較して有意に長かった (P < 0.05)。遊離型薬物濃度に基づく血中濃度時間曲線下面積 (fAUC24)/MICがテジゾリドの抗菌活性と最も強い相関を示し、MRSAおよびVREに対する1 log10 killの達成に必要なテジゾリドの fAUC24/MICはそれぞれ138.5および14.2であった。ヒトの臨床用量でのAUCは約30 µg・h/mLであり、これらを換算するとそれぞれ、258.4および26.5となる。以上のことを踏まえるとテジゾリドは好中球減少のMRSA感染症患者では治療効果を達成することは難しく、一方でVREでは達成可能であることが示された。 4 実務薬学講座 140 薬効解析学講座

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