慶應義塾大学薬学部 教育・研究年報2022
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薬効解析学講座 5 薬効解析学講座 1412)インプラント型マウス骨髄炎モデルの構築ならびにそれを用いたバンコマイシンおよびテジゾリドのPK/PD評価 抗菌薬のpharmacokinetics (PK)/pharmacodynamics (PD) 解析に適した骨髄炎モデルは未だ確立されていない。本研究ではインプラント型マウス骨髄炎モデルを用いてバンコマイシンのPK/PD解析を実施しその妥当性を評価した。さらに同様の方法でテジゾリドの最適なPK/PDパラメータ値を算出した。【方法】各薬物のタンパク結合率は限外濾過法に従って算出した。バンコマイシンまたはテジゾリドを単回投与しPKパラメータを算出した。インプラント型骨髄炎モデルは滅菌した縫合糸をMRSA懸濁液に浸潤し作製したインプラントを好中球減少マウスおよび免疫正常マウスの脛骨に挿入して作製した。PKパラメータおよびMICを用いて各種PK/PDパラメータを算出し、各薬物の抗菌活性の関係性を評価した。【結果・考察】MRSA (ATCC 33591株) に対するバンコマイシンのMICは1 µg/mLであった。遊離型薬物濃度に基づく血中濃度時間曲線下面積 (fAUC24)/MICにおいてバンコマイシンの抗菌活性と最も高い相関性が見られた (R2=0.89)。好中球減少マウスにおいてMRSA骨髄炎に対する静菌効果および1 log 10 killを達成できるバンコマイシンのfAUC/MIC値はそれぞれ91.3および430.0であり、本骨髄炎モデルはPK/PD評価に有用なモデルであることが示された。またテジゾリドの抗菌活性はfAUC/MICと最も相関していた (R2=0.95)。免疫正常マウスにおいて静菌効果および1 log 10 killを達成するテジゾリドのfAUC/MIC値はそれぞれ2.4、および49.2であり、テジゾリドは非好中球減少のMRSA骨髄炎患者に対して静菌的あるいは弱い殺菌的効果が得られることが示された。 3)Clostridioides difficileに対するテイコプラニンのin vitro抗菌活性及びin vivo感染マウスモデルを用いた有効性の評価 重症Clostridioides difficile 感染症 (CDI) の第一選択薬としてバンコマイシン(VCM) が推奨されているものの、高い再発率が問題となっている。同系統薬のテイコプラニン (TEIC) は複数の臨床試験から CDI への有効性が報告されているが、基礎的検討は詳細に行われていない。本研究はin vitro 及びin vivo 実験により TEIC のC.difficile に対する抗菌活性を VCM と比較した。In vitro 試験でC. difficile ATCC®43255 に対する TEIC 及び VCM の最小発育阻止濃度 (MIC) 測定、time-kill 試験、postantibiotic effect (PAE) 測定を行った。また CDIマウスモデルに TEIC (128 mg/kg/day)、VCM (160 mg/kg/day) を 10 日間経口投与し、生存率、糞中生菌数および芽胞数、clinical sickness score(CSS)、トキシン活動性、再発の有無を評価した。TEIC および VCM の MIC はそれぞれ ■■■■■■g/mL、1.35 ■g/mL であった。TEIC は VCM と同様に時間依存的であり、VCM よりも緩やかな抗菌活性を示し、PAE はVCM の約 20 倍であった。次に、TEIC と VCM の抗菌作用を CDI マウスモデルを用いて評価した。その結果、TEIC 治療群は Control 群と比較し、生存率と相対的体重の有意な上昇、糞中生菌数及び芽胞数、CSS、トキシン活動性の有意な低下が認められた。これらの治療効果は VCM と同等であった。興味深いことに TEIC は VCM より CDI の再発を有意に抑え、その理由のひとつとして長い PAE が寄与している可能性が考えられた。In vitro 及びin vivo 実験により、TEIC は CDI に対して VCM と同等の有効性、並びに VCM よりも再発率が有意に低いことが明らかとなった。 4)Nacubactam/Aztreonamの至適用量探索のための新たなPK/PD解析手法の構築 新規■-ラクタマーゼ阻害剤のNacubactam(NAC)は阻害活性に加えて抗菌活性を有し、Aztreonam(AZT)との併用でカルバペネマーゼ(NDM型、IMP型、OXA型)産生菌に対して効果を示す。し

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