慶應義塾大学薬学部 教育・研究年報2022
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かしこれまで併用時の目標Pharmacokinetics(PK)/Pharmacodynamics(PD)パラメータ値を示した報告はない。本研究ではNAC併用時におけるAZTの目標値を検討するために新たなPK/PD解析手法を構築した。Checkerboard法により、NDM型、IMP型、OXA型産生菌に対してNAC濃度とAZTの最小発育阻止濃度(MIC)の用量反応関係を評価した。マウス大腿部感染モデルにAZT/NACを投与し24時間後の生菌数変化を定量した。NAC投与によるAZTのMIC変化を考慮したTime above MIC(TAM)をPK/PDパラメータとして用い生菌数変化との相関関係を評価した。NDM、IMP、OXA産生菌に対してAZTのMICを4 mg/L以下に低下させるNAC濃度はそれぞれ1.02、0.05、0.61 mg/Lであった。NDM、IMP、OXA産生菌感染マウスを用いて算出したNAC併用時におけるAZTのTAMは生菌数変化と高い相関を示しR2値はそれぞれ0.89、0.98、0.92であった。殺菌効果(1 log kill)を示すTAMはそれぞれ28、49、56%であった。本研究結果より、Checkerboard法とin vivo PD試験を組み合わせた新たなPK/PD解析手法は、併用時用量探索の有用な手段となると考えられた。 Ⅲ.抗菌薬の抗炎症効果に関する研究 1)デキストラン硫酸ナトリウム誘発性炎症性腸疾患マウスモデルにおけるfidaxomicinの抗炎症効果の評価 Clostridioides difficile感染症(CDI)は下痢を主症状として、重症では死に至る疾患であり、その発症リスクの一つとして炎症性腸疾患(IBD)が知られている。近年、CDI治療薬であるfidaxomicin(FDX)の抗炎症効果がex vivo試験で示され、IBDを併発したCDIの最適治療薬としてFDXが期待されるが、その効果はin vivo試験で実証されていない。そこで本研究では、IBDモデルとして汎用されているデキストラン硫酸ナトリウム(DSS)誘発性炎症性腸疾患マウスモデルを用いてFDXの抗炎症効果を評価した。2% DSS(w/v)を7日間自由飲水させてIBDマウスモデルを作製した。FDX(30 mg/kg/day)またはvehicleを連日経口投与し、disease activity index(DAI)スコア、大腸の長さ、形態学的変化(大腸のHE染色)により抗炎症効果を評価した。Vehicle投与群では経日的にDAIスコアは上昇したのに対して、FDX投与群ではその上昇が有意に抑制された。また、FDX投与群はvehicle投与群と比較して大腸の短縮を有意に抑制した。さらに形態学的評価より、vehicle投与群は腸陰窩・杯細胞の破壊が多数有り炎症細胞の浸潤が高度であったのに対して、FDX投与群は軽度であった。DSS誘発性IBDマウスモデルに対しFDXは抗炎症効果を示した。故に、IBDを併発したCDIに対しFDXが最適な治療薬になる可能性が示された。 2)ラット足蹠浮腫に対するテジゾリドの抗炎症効果 オキサゾリジノン系薬のリネゾリドは抗炎症効果を有している。一方、同系統のテジゾリド(TZD)が抗炎症効果を有するかは明らかになっていない。LZDより副作用発現率が低いTZDが抗炎症効果を有することを示すことができれば、TZDの治療薬としての位置付けが変わる可能性がある。本研究ではカラゲニン誘発ラット足蹠浮腫モデルを用いてTZDの抗炎症効果を検討した。カラゲニン誘発ラット足蹠浮腫モデルにTZDを0, 10, 20, 40 mg/kgの用量で投与し、9時間後まで経時的に浮腫率を測定した。台形近似法を用いて浮腫率推移の時間曲線下面積 (AUCedema) を算出した。またカラゲニン誘発ラット足蹠浮腫モデルにおけるTZDの血中濃度推移についても評価し、Phoenix WinNonlinを用いて血中濃度時間曲線下面積 (AUCblood) を算出した。AUCedemaはTZD用量依存的に減少し、TZDがカラゲニン誘発の足蹠浮腫を抑制することが示された。特にTZD 40 mg/kg投与群では、カラゲニン投与6時間6 実務薬学講座 142 薬効解析学講座

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