Ⅴ.サルコペニアに関する研究 自己点検・評価 1)骨格筋萎縮による敗血症病態の増悪と免疫状態変動の関与 敗血症は全身性に深刻な免疫破綻を生じる疾患であり、予後改善のためには敗血症病態における免疫状態の把握とその制御は最も重要な課題である。骨格筋量が低下した患者では敗血症の死亡率は約2倍上昇するとされているが、骨格筋の萎縮が免疫状態や予後増悪に及ぼす影響は未だ不明である。C57B6/J雄性マウスに対し坐骨神経切除術を行い筋萎縮モデル (DN) を作製した。その後盲腸結紮穿刺 (CLP) により敗血症を誘導し、生存率や血中サイトカイン量を評価した。さらにフローサイトメーターを用いて、脾臓T細胞のポピュレーション変動を評価した。CLP誘発敗血症において、DN群ではsham群と比較して生存率が約30%減少した (p<0.05)。また、CLP処置48時間後、DN群ではtumor necrosis factor-α、interleukin (IL) -1β、IL-10濃度がsham群と比較して有意に増加し持続的なサイトカイン異常状態を示した。脾臓T細胞のポピュレーション変動を評価した結果、CLP処置後の制御性T細胞 (Treg) の割合は、sham群と比較してDN群で有意に増加した。さらにCD4+T細胞およびTregにおける免疫チェックポイント分子のCTLA4 (cytotoxic T-lymphocyte associated antigen 4) の発現量はDN群で有意に上昇し (p<0.05)、敗血症後の免疫抑制状態が亢進していた。骨格筋萎縮下では敗血症の予後が増悪し、さらにT細胞免疫の疲弊病態であることが示され、骨格筋量の低下した患者における敗血症予後増悪としての可能性が示唆された。 2)慢性腎臓病モデルマウスを用いた遠隔臓器線維化誘導モデルの検討 慢性腎臓病 (CKD) は多くの合併症が問題となる疾患であり腎臓以外の臓器においても線維化が進行するが、その詳細について検証した報告は少ない。そこでCKDモデルとして6分の5腎摘 (5/6Nx) モデルおよび片側尿管結紮 (UUO) モデルを用いて異なるCKDモデルによる他臓器の線維化に対する影響を評価した。5/6Nxモデル、UUOモデルおよび右腎の3分の2の摘出と左腎の尿管の結紮を組み合わせた (2/3Nx+UUO) モデルの3つを作成した。モデル作成1か月後における、腎臓、心臓、肝臓および肺の線維化について組織学的染色法、PCR法などにより評価した。各CKDモデルの腎障害の評価では5/6Nxモデルおよび2/3Nx+UUOモデルでは血中尿素窒素が上昇し (p<0.01)、さらに2/3Nx+UUOモデルでは尿毒症物質の蓄積も見られ腎機能が低下した (p<0.05)。しかしUUOモデルでは腎機能低下はみられなかった。腎臓の線維化の評価では、UUOを施した腎臓では、collagen 1α1 (Col1α1) やtransforming growth factor (Tgf)–β1の遺伝子発現が上昇したが5/6Nxおよび2/3Nx+UUOモデルの2/3腎摘を施した腎臓では線維化はみられなかった。次に他の臓器における線維化を評価した結果、2/3Nx+UUOモデルにおいて、肝臓および心臓でそれぞれTgf-βおよびCol1α1発現が上昇し、線維化の誘導が認められた (p<0.05)。UUOと5/6Nxを組み合わせた2/3Nx+UUOモデルは、既存のCKDモデルに比べ早期より腎機能の低下と腎および他臓器の線維化を誘導可能なCKDモデルとなる可能性が示された。 本講座は、3、4年次の実務実習事前学習(講義、演習、実習)などの医療系教育を担当している。Ⅰ.教育について 8 実務薬学講座 144 薬効解析学講座
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