慶應義塾大学薬学部 教育・研究年報2022
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 ASEAN各国における医薬品安全性監視制度の実態調査  国内製薬企業の時価総額成長要因の検討 Ⅰ.レギュラトリーサイエンス研究  世界各国薬局方における生薬中のヒ素及び重金属に関する規定の比較 【目的】国際基準や世界各国の薬局方で規定される、生薬中の元素不純物量の比較を行い、各国の規制状況及び国際調和の現状を明らかにする。 【方法】国際機関であるWHOやISOの他、Index of World Pharmacopoeias and Pharmacopoeial authoritiesに掲載されている、アメリカ、インド、韓国、中国、日本、ブラジル、ベトナム、EUや、FHHに加盟している香港を対象に、薬局方又は資料ごとに生薬の規定の有無別に集計し、上限値をバブルプロット、試験法を対比表にて図示した。対象とする生薬は、日本薬局方の生薬総則により定義し、元素不純物は、ヒ素、鉛、カドミウム、水銀を対象とした。解析アプリケーションはJMP Pro 16を使用した。 【結果と考察】WHOガイドライン(N=117)は全ての生薬に、ヨーロッパ薬局方(N=254)や香港の基準(N=330)はほとんどの生薬に、一律の上限値を規定していた。一方、日本薬局方(N=173)や中国薬典(N=611)、ベトナム薬局方(N=330)は、生薬ごとに異なる上限値を設定していた。伝統医学が生活文化に根付いている国では、生薬の多様性を重んじることから、この様な傾向が見られた。試験法に関して、ISO規格は、機器分析法のみ掲載していたものの、日本薬局方やインド薬局方(N=90)は、化学的な試験法のみを採用していた。両国は、経済的に分析機器を導入できない、小規模な供給元に配慮をしていると考えられた。 【結論】生薬中の元素不純物に関する世界各国の基準は、調和には至っていないことが明らかになった。生薬の多様性及び安全性の確保を両立し、伝統医学の将来的な国際利用を促進するためには、規制の収斂のための新たな国際規格の策定が必要である。 【目的】ASEAN各国での医薬品安全性監視(PV)制度について、その整備状況及び実施状況を明らかにする。【方法】ASEAN加盟国(ブルネイ、カンボジア、インドネシア、ラオス、マレーシア、ミャンマー、シンガポール、フィリピン、タイ、ベトナム)及び参照国として東アジア3ヵ国(日本、中国、韓国)の計13ヵ国を対象に、各国PVガイドラインや所轄機関のwebサイトを用いてPVシステムの有無を調査した。PVの実装が確認された国に対し、副作用等自発報告の方法、PVセンターの業務範囲、安全管理措置の実施状況、COVID-19治療薬及びワクチンに対するPVを調査した。【結果と考察】全13ヵ国のうち、ミャンマーを除く12ヵ国でPVプログラムの実施が確認された。自発報告の対象製品及び事象には各国で相違が見られたが、医薬品とワクチンによる有害事象はいずれの国でも報告対象であった。ラオスを除く12ヵ国で自発報告は製薬企業の義務とされ、うち5ヵ国で医療従事者は努力義務としていた。年間自発報告件数は、インドネシアで6,113件、中国で1,962,000件と、報告件数が入手できた9ヵ国間で顕著な差が見られた。これら報告件数の差は、人口以外にも報告対象の製品や事象、報告義務対象者等の規制の違いに起因すると示唆される。COVID-19治療薬及びワクチンのPVでは、タイ、ラオス、ミャンマーを除く全調査対象国で製薬企業による自発報告の収集と安全性定期報告を義務化していた。【結論】ASEAN諸国内でPVシステムの成熟度及び実施状況に差があることが明らかとなった。各加盟国が強固なPVシステムの必要性を認識している今、加盟国間で相互にPVに関するリソース及びノウハウを交換し、PVシステムのさらなる調和が望まれる。 【背景と目的】本邦に於いて、医薬品産業の時価総額はここ10 年、他の産業と比較して高い成長性を示している。時価総額の伸長した背景を他産業との違いの観点から探索したところ、海外売上高の増加が関係研究概要 4 医薬品開発規制科学講座 158 医薬品開発規制科学講座

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