医療情報データベースを用いる研究のためのOutcome Definition RepositoryにおけるPilot版の構築 対象患者は、 2005年1月から2021年8月の間に調査対象薬の処方が特定され、 かつ、 糖尿病のICD-10コード(E10-E14)を調査対象薬の処方日の1年後以前に持ち、 かつ、 有害事象の記録がある患者とした。有害事象は調査対象薬の初回処方後初めて記録された傷病データとした。 患者情報に基づき予測するタスクを通じて有害事象の分散表現を獲得し、 得られた有害事象のベクトルをWard法でクラスタリングした。 Bidirectional Encoder Representations from Transformers (BERT)による学習はMasked Language Model(MLM)で行った。 入力は患者ごとの年齢、 性別、 及び既往歴、 糖尿病治療薬による併用・既治療歴、 有害事象とした。学習精度をPrecision micro、 形成されたクラスターをSilhouette Index(SI)とDavies-Bouldin Index(DBI)で評価した。 SIが0を超えるクラスターに対して添付文書に記載の副作用と医薬品リスク管理計画の安全性検討事項との照合、 及び医学レビューを行ってモデルの有用性を評価した。 【結果】調査対象患者はインスリン製剤で98,667人(平均年齢70.4歳、 男性59%)、 DPP-4阻害薬で64,183人(66.4歳、 61%)、 SGLT-2阻害薬で23,866人(61.7歳、 63%)、 ビグアナイド薬で40,167人(61.6歳、 63%)、 及びGLP-1受容体作動薬で20,070人(66歳、 57%)であった。最大precision microとSIはインスリン製剤で0.33、 0.062、 DPP-4阻害薬で0.67、 0.06、 SGLT-2阻害薬で0.46、 0.056、 ビグアナイド薬で0.43、 0.058、 及びGLP-1受容体作動薬で0.67、 0.056となり、 DBIはいずれも2であった。 医学レビューの結果、 全薬剤クラスで形成されていた672個のクラスターのうち109個(16.2%)が添付文書に記載の副作用を含むクラスターであった。 SGLT-2阻害薬以外で低血糖クラスターが形成され、 インスリン製剤(SI:0.16)で形成されたクラスターはインスリン製剤で形成したクラスターのうちSI値が上位8番目と高値であった。 添付文書に記載の副作用を含むクラスターとして、 類天疱瘡を含むクラスターがDPP-4阻害薬(SI:0.003)とGLP-1受容体作動薬(SI:0.042)で形成された。 薬剤クラス特有なクラスターとして、 DPP-4阻害薬で関節炎 (SI:0.13)、剥脱性皮膚炎(SI:0.13)、 間質性肺炎・喘息 (SI:0.053)、 ビグアナイド薬で乳酸アシドーシス (SI:0.071)、 SGLT-2阻害薬で性器感染症・頻尿 (SI:0.081)を含むクラスターが形成された。 【結論】本研究ではインスリン製剤、 DPP-4阻害薬、 SGLT-2阻害薬、 ビグアナイド薬、 及びGLP-1受容体作動薬を対象に本技法で有害事象をクラスタリングした結果を比較し、 SGLT-2阻害薬、 DPP-4阻害薬、 及びビグアナイド薬に特有な既知の副作用と関連するクラスターを検出した。 以上より、 本技法がシグナル検出に活用できる可能性が示唆された。 さらなる改良のために今後は他の薬剤に適用し、 本技法の特性を明確にすることが重要である。 【背景・目的】日本薬剤疫学会「医療情報DBを用いる研究のためのOutcome Definition Repositoryタスクフォース(ODR-TF)」では、医療情報データベース(DB)研究にて設定されたコード定義および研究論文に関する情報を集積し、研究者等に共有するための知識基盤となるウェブベースのデータベースであるODRの構築に向けて活動してきた。本研究では、ODRの運用に必要となるシステム要件等を検討するためにPilot版ODRを構築し、評価を行った。 【方法】ODR-TFメンバーの目標「研究者の様々な目的に応じた利用ができ、利用しやすく持続的な運用が可能なODR」に合致した要件定義を行い、データ品質確保の観点からデータの冗長性や不整合を削減するためにDBの正規化を実施し、仕様や各種定義を定めたテーブル定義書およびテーブルの関係図であるEntity Relationship Diagram(ER)図を作成し、Pilot版ODRを設計した。次に、設計に基づきGoogle社のAppsheetを用いてPilot版ODRを構築し、入力・操作マニュアルの整備を行った後、ODR-TFメンバー10名によるユーザーテストおよび研究協力者2名による日本の医療情報DBを用いた既報論文の入力を行った。6 医薬品開発規制科学講座 160 医薬品開発規制科学講座
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