慶應義塾大学薬学部 教育・研究年報2022
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 安全性速報がラモトリギンの処方と有害事象の報告に及ぼした影響の評価  大規模診療報酬請求情報データベースを用いた、日本の小児患者における降圧薬の適応外使用実態した。これは、持効型溶解インスリン(LA)やメトホルミン(Met)の適応外使用によるものと考えられる。LAは小児1型糖尿病、Metは小児2型糖尿病への有効性が知られていたため、高頻度で小児適応外使用されていた可能性がある。一方、2016年にかけて7.5%に減少した。これは、2014年以降のLA3剤とMet1剤の小児適応取得が原因と考えられる。【結論】糖尿病用薬の小児適応外使用割合は2013年までは増加したが、以降はLAやMetの小児適応取得の影響により減少した。日本の小児患者に汎用されている適応外薬について、小児への適応拡大を目指した開発が望まれる。 調査 【目的】日本の小児患者に対する降圧薬の適応外使用実態を明らかにする。【方法】株式会社JMDCが保有する診療報酬請求情報データベースを用い、2005年1月~2020年10月の間に、日本で成人に対し高血圧症を効能・効果として承認されている薬剤(降圧薬)が処方された患者を調査対象とした。主要評価項目は小児適応外使用とし、(1)承認年齢外での使用、(2)承認用量外での使用、(3)添付文書に小児の用法用量の記載が無い薬剤の使用のいずれかを満たすものとした。処方時点で15歳未満の小児に処方された降圧薬の適応外使用割合を算出し、年次推移を示した。【結果と考察】対象小児患者は17,103人、処方件数は612,985件(処方時平均年齢2.9歳)であった。このうち高血圧症の傷病名を有する小児患者に対する処方は53,454件(処方時平均年齢4.7歳)であり、適応外使用割合は、4剤が小児適応を取得した年の前年2011年では100%(372件)であった。その後、2013年に減少し(64.1%)、2019年にかけては増加したが(78.6%)、2019年更に1剤の小児適応取得後、2020年に再度減少した(74.3%)。また適応外使用のうち6歳未満の低年齢群の割合は2014年から2020年にかけて増加した。【結論】本研究では、小児のうち特に低年齢群での降圧薬の必要性および適応外使用実態を明らかにした。今後は低年齢群において、安全性・有効性の確立を目指した臨床試験の実施および適応の取得が望まれる。 【目的】抗てんかん薬のラモトリギンは、重篤な皮膚障害との関連が知られており、2015年に安全性速報が発出されている。安全性速報がラモトリギンの処方と重篤な皮膚障害の報告に与えた影響を、他の薬剤や有害事象に及ぼした波及効果を含めて評価する。 【方法】ラモトリギンおよびカルバマゼピンを対象薬剤とした。厚生労働省が公開しているNDBオープンデータおよびPMDAが公開している医薬品副作用データベースJADERを用い、対象薬剤の処方数、重篤な皮膚障害の報告数、重篤な皮膚障害以外の有害事象の報告数を算出し、年次推移を示した。さらに、報告数のデータに対して、安全性速報の発出と添付文書の改訂の影響を評価するために、一般化線形モデルを用いて中断時系列解析を行った。 【結果と考察】安全性速報の発出前後で比較した結果、ラモトリギンでは、処方数は増加していたにもかかわらず、報告数において有意なトレンドの減少がみられた。また、カルバマゼピンでも、発出前後で処方数は一定であった一方、報告数における有意なトレンドの減少がみられた。安全性速報の発出は、医療従事者に副作用を徐々に周知させ、ラモトリギンの適正使用を促進したことが示唆される。また、カルバマゼピンに対しても適正使用を促し、波及効果を及ぼしたと推察される。 【結論】本研究により、ラモトリギンによる重篤な皮膚障害についての安全性速報は、医薬品の適正使用を促進し、ラモトリギンとカルバマゼピンの有害事象の報告数を減少させたことが明らかになった。今後も、重篤医薬品開発規制科学講座 9 医薬品開発規制科学講座 163

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