慶應義塾大学薬学部 教育・研究年報2022
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自己点検・評価 Ⅰ.教育について poly (N-isopropylacrylamide)(PNIPAAm)を修飾したビーズを用いた細胞分離カラムを開発した。荷電性モノマーであるN,N-dimethylaminopropylacrylamide(DMAPAAm)とPNIPAAmの共重合体を修飾した担体を充填剤としたカラムを作製し,幹細胞のみを選択的に保持し,分離できることがわかった。 III.機能性人工タンパク質シェルの開発 天然には、ウイルスのカプシドに代表されるように中空の球状構造(シェル構造)を形成し、物質の貯蔵、生産、輸送などの多様な生命現象に利用されるタンパク質が存在する。これらは、通常数十から数百個以上の単一あるいは複数のタンパク質サブユニットが、規則的に自己集合したナノからマイクロメートルオーダーの大きさの構造体である。我々は、これら天然のタンパク質シェルを遺伝的・化学的に改変することで、または人工的なタンパク質シェルを新たにデザインすることで、天然には無いさまざまな形態・特性・機能を持つ人工タンパク質シェルを創成し、drug delivery system (DDS) などへの応用を目指した研究を行っている。 さまざまな天然のシェルタンパク質が知られている中で、現在我々は、bacterial microcompartment(BMC)と呼ばれる一部の細菌が有する数百nmサイズの巨大マイクロコンパートメントや、直径約16 nmのシェル構造を形成することが知られている超好熱細菌由来のルマジン合成酵素に注目している。近年の包括的ゲノム解析の結果、BMCと推測される遺伝子クラスターは、機能が明らかでないものを含めて多くの細菌から見つかっている。しかし、複数のシェルタンパク質が複合的に組み合わさって構築されるBMCシェルは、その全体構造の複雑さゆえに、これまでほとんど応用研究に利用されていない。そこで我々は、進化分子工学によって、多様なBMCシェルタンパク質を改変し、それ自身の自己集合のみによって均一なシェル構造を形成可能な人工シェルタンパク質を創り出すことを試みている。また、超好熱細菌由来のルマジン合成酵素は、高い熱安定性など、目的タンパク質を内包して人工応用するための有用な性質を備えている。さらに興味深いことに、わずか数アミノ酸の変異導入によって、野生型とは異なる形とサイズを持つ規則的で多孔性の人工シェルが自発的に形成されることが見出されており、これまでに直径29 nmや37 nmの変異体が報告されている。我々は、ルマジン合成酵素の内腔側にタグ配列を導入し、これを認識するドメインを融合した目的タンパク質を自発的かつ特異的に内包する変異体の開発に成功した。今後は、これらの人工シェルの構造や性質の詳細を明らかにするとともに、疾病治療を含むさまざまな生命現象の制御や分析へと応用することを目指している。 創薬分析化学講座では,薬学の重要な基礎をなす領域である物理系薬学のうち,学部教育においては,本講座の教員のみで担当した教科として英語演習(薬科学科),英語演習(薬学科),物理化学1,物理化学2,薬剤学実習の物理薬剤・製剤学実習を担当した。統合型カリキュラムのもと他の講座の教員と分担し担当している教科としては,分析化学,物理化学3,薬科学概論,早期体験学習 (薬科学科),薬学基礎実習,実験法概論など,担当教科は多岐に亘っている。物理化学教育は基礎からの積み上げが大切と考えられ,講座内で意見交換し,より効果的な教育となるように担当者を入れ替えるなど常にブラッシュアップを心がけた。 本年度の講座構成員は,教授1名,准教授1名,講師1名,特任教授1名,特任助教1名,薬学部共同研究員4名,研究員1名,博士課程(薬学専攻) 3年(社会人) 1名,後期博士課程(薬科学専攻) 2年(社会人)1名,修士課程(薬科学専攻) 2年5名,1年5名,卒論生は薬学科6年生6名,5年生6名,4年生6名,薬科学科4年生6名,3年生6名であった。 4 創薬分析化学講座 172 創薬分析化学講座

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