慶應義塾大学薬学部 教育・研究年報2022
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生物有機化学 –生体分子の化学反応- [秋学期前半(1単位・必修)、担当 熊谷(ユニット責任者)] 本講義は主にコアカリキュラム「C4(2)生体反応の化学による理解」に対応しており、春学期前半の「生物有機化学 –生体分子の化学構造–」から継続した科目であり、医薬品の生体内での作用を化学的に理解できるようになるために、医薬品の作用の基礎となる生体反応の化学的理解に関する事項を修得することを目的とした。内因性リガンドの構造と性質、補酵素の役割、活性酸素の化学、生体分子の代謝や異物代謝の有機化学的理解、ファーマコフォア、バイオアイソスター、医薬品に含まれる複素環を教えた。また、モデル・コアカリキュラムにはないが、生体分子と医薬品の相互作用を考える上で重要となる3次元的な分子構造を理解させるため、適宜分子の立体動画を示して解説した。本年は「クリックケミストリーおよび生体直交化学」に対してノーベル化学賞が授与された。そこで発表日のおよそ1週間後にあたる第7回講義の時間の一部を使って簡単な解説を行い、生命科学研究、創薬科学研究における有機化学の重要性を認識してもらえるよう努めた。「生物有機化学 –生体分子の構造–」と同様、生化学など他分野の知識も必要であり、それらと関連付けながら講義を行った。 医薬品化学1 [秋学期後半(1単位・必修)、担当 熊谷(ユニット責任者) 堤] 本講義は主にコアカリキュラム「C4(3)医薬品の構造と性質、作用」の前半部に対応しており、秋学期前半の「生物有機化学 –生体分子の化学反応–」から継続した科目である。医薬品に含まれる代表的な構造およびその性質を医薬品の作用と関連づける基本的事項を修得することを目的としている。前半4回は熊谷が担当し、医薬品の化学構造に基づいた酵素阻害剤とその作用様式を講義した。後半4回は堤が担当し、酵素に作用する医薬品(核酸アナログ、フェニル酢酸、スルホンアミド、キノロン、β-ラクタム、ペプチドアナログ)の構造と性質を教えた。分子レベルで見た低分子医薬と酵素の相互作用の様子やプロドラッグから親化合物が放出される機構等、医薬品の生体内での振る舞いを有機化学的に理解することに特に重点を置いたが、適宜薬理学や医薬品名称のステムとも関連付けながら講義した。 医薬品化学実習 [春学期(必修)、担当 熊谷 大江 堤] 本実習では有機化学実験に関する基本的な知識、技能を応用し、代表的な有機化学反応を用いて医薬品を合成できること、基本的な有機化合物の構造をNMR、IR、MSスペクトルから同定できることを目標とした。 医薬品合成実習については、頻用されるNSAIDsの一つであるイブプロフェンを標的化合物として、多段階合成を2人1組で行わせた。2021年度は、新型コロナウイルス感染症対策として、実習が始まる前までに、実習の目的や合成反応の機構説明などを解説する事前実習講義動画を視聴させていた。必要に応じて繰り返し視聴できることによる教育効果が高いと判断し、2022年度も同様の講義動画を作成し視聴させた。実際の実習では、p-イソブチルアセトフェノンのDarzens反応による炭素-炭素結合の形成反応、加水分解反応と続く脱炭酸反応を伴うエポキシドの開環反応、アルデヒドの酸化反応を経て解熱鎮痛剤イブプロフェンを合成させた。この工程により、基本的な実験装置、反応経過の追跡法、生成物の抽出、単離、確認法について深く学び、また、キラル医薬品に関する知識も学ばせた。 構造解析では、NMR、MS、IRを中心にその原理と解析法を習得することを目的に、有機化学3の講義で扱った機器の原理や測定方法を復習させた後、実際のデータの解析を演習形式で行った。また、アスピリンからイブプロフェンに至る構造展開と合成手法に関するビデオ教材を用い、製薬企業にお2 分子創成化学講座 182 分子創成化学講座

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