慶應義塾大学薬学部 教育・研究年報2022
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研究概要 分子創成化学講座 5 分子創成化学講座 185分子創成化学講座では主に1. キノリンを構成単位とする機能性分子構築、2. ジアミノピリミジン構造を有する蛍光性分子(C4N4化合物)の機能多次元化、3. 新奇ヘテロ環化合物合成とその機能開拓、4. 新型コロナウイルス感染症治療薬を目指した新規フラーレン誘導体の創製の4つのテーマについて研究に取り組み、以下に示す成果を挙げている。 1.キノリンを構成単位とする機能性分子構築 全炭素型芳香族ユニットを利用する新奇分子群構築はグローバルに展開されているが、含窒素ヘテロ環であるキノリンをユニット構造として採用した分子デザインは限られている。我々は窒素の配位機能性とキノリン分子の非対称性に着目した高次分子骨格形成を進めており、これまでにhead-to-tail型3量体TriQuinoline(TQ)の合成を報告している。TQは3個のキノリンユニットに挟まれた中心空隙内にプロトンを強力に捕捉することでカチオン性の擬平面芳香族分子となり、高い水溶性や他のπ共役分子との超分子形成能といった特異な物理・化学的性質を示す。本年度は、TQの環周辺の構造修飾法の開発に取り組んだ。検討の結果、2個のキノリン環を有する大環状ラクタムを原料とし、種々のニトリルとの反応によりキナゾリン環を形成させることで、2個のキノリン(Q)と1個のキナゾリン(Qz)が環状に連結したDiQuinoline-MonoQuinazoline(DQMQz)誘導体が合成できることを見出した。DQMQzは、キナゾリン環構築時に用いるニトリルを変更することで多様な誘導体を合成可能であり、微生物化学研究所との共同研究により各種誘導体の生物活性を調査している。また、DQMQzの超分子形成能を利用し、DQMQzで修飾したポリマーを環境中の有害な多環式芳香族分子(PAHs)の除去剤として応用することを検討しており、現在までにいくつかのピレン誘導体を吸着することを見出している。 さらに、前年度から引き続きヘテロ原子の導入やキノリン環の漸増により立体性を付与した非平面型キノリン多量体の合成・機能開拓も継続している。既に、平面型分子であるTQに対してもう1分子のキノリン環を挿入したsaddle型キノリン4量体TEtraQuinoline(TEQ)を合成し、物性評価ならびに金属錯体の触媒機能評価を進めている。本年度は、TEQの4個のキノリン環のうちの2個をインドール(In)またはナフタレン(N)に変更した立体型環状分子Q2In2およびQ2N2を新たにデザインし、合成検討を行った。いずれについても合成とX線結晶構造解析による構造同定に成功した。Q2In2およびQ2N2のインドール部位およびナフタレン部位はそれぞれアニオン性の炭素または窒素配位部位とみなせるため、分子全体としては2価アニオン性大環状配位子として機能することが期待できる。実際、Q2In2についてはいくつかの金属と錯体を形成することを確認している。今後、金属錯体化のさらなる検討とその物性評価ならびに触媒機能を精査する。 2.ジアミノピリミジン構造を有する蛍光性分子(C4N4化合物)の機能多次元化 2,5-ジアミノピリミジン構造を特徴とするC4N4化合物は、汎用試薬から1工程でモジュラー的に合成が可能な強蛍光性化合物である。2021年度の講座設立時より、C4N4分子中に蛍光のON/OFFを制御するメカニズムを組み込むことにより蛍光プローブとしての機能開拓を進めてきた。今年度は、ピリミジン環上2位アミノ基をイミンに変換することで消光することを見出し、アミノ基-イミノ基間の相互変換を利用した蛍光プローブとしての利用可能性を検討した。具体的には、医薬品原薬(API)中の微量パラジウム(Pd)のハイスループット検出を志向し、2位イミノ基近傍にアリル置換フェノ

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