慶應義塾大学薬学部 教育・研究年報2022
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ールを配したPdプローブ分子を設計・合成した。合成したプローブを0価パラジウム含有溶液中に添加することで発光することを確認し、励起・蛍光波長は4,6位置換基を変更することで調節可能であった。この結果から、当初の想定通り0価パラジウムとアリル置換フェノールとの反応によるフェノール性ヒドロキシ基の露出と続く分子内N,O-アセタール形成により蛍光性を回復することを見出し、本分子設計に基づく蛍光のON/OFF制御が可能であることを実証した。今後フェノール上置換基の変更により、様々な環境に応答する蛍光プローブの創製を進めていく。 一方、種々の置換基を有するC4N4類縁体を合成する中で、これまで発光に必須と考えられていたピリミジン環4,6位のアリール置換基を持たないにもかかわらず蛍光性を示すC4N4類縁体が複数同定された。また、4,6位にアリール基を持つ場合でも、アリール基上の置換基の種類および置換位置によっては蛍光性が消失することを見出した。今後も系統的な類縁体合成を継続し、C4N4分子全般の詳細な発光メカニズムならびに蛍光性の消失を引き起こす構造的要因を明らかにする。得られた知見を新たな発光制御法の開発に応用する。 3.新奇ヘテロ環化合物合成とその機能開拓 低分子医薬品の多くはアミド結合を含んでおり、最近の統計によるとアミド結合形成反応は創薬化学において最も使用される反応とされている。現在、アミド結合形成は原料の一つであるカルボン酸に対して当量以上の活性化剤を使用する試薬援用型反応で実施されており、多くの医薬品が試薬廃棄物の副生を伴いながら日々生産されている。我々は、炭素原子を含まないB3NO2型ヘテロ6員環を特徴とする分子DATB(1,3-Dioxa-5-Aza-2,4,6-TriBorinane)が、カルボン酸とアミンの直接的な脱水縮合型アミド化反応を強力に触媒することを見出している。DATBによるアミド形成は副生物が水のみであり、理想に近い環境調和型合成であることから、本触媒のさらなる高活性化、適用範囲の拡大ならびに高次機能化を進めている。 前年度までにB3NO2環を構成する原子の一部を置き換えたB2NO2Si型6員環、B2NO2C2型キラル7員環などの新規ヘテロ環骨格構築法を確立した。今年度はこれら新規ヘテロ環化合物のアミド化触媒能を調査し、いずれもオリジナルのDATBよりは低活性ながらアミド化触媒能を示すことを見出した。これは、DATB分子内のB–N–B部位が触媒活性中心であるというこれまでの想定を裏付ける重要な結果である。また、これらの新規ヘテロ環構築法を応用し、既存のDATBに対し複数の配位性置換基を導入することに成功し、金属触媒との複合化による高次機能触媒創出への端緒を開いた。 また、従来市販化合物から4工程かかっていたDATB合成経路の短縮化に取り組み、同じ出発原料からわずか2工程で合成可能な新規合成法を開発した。新規合成法では、合成中間体および最終目的物のDATBがいずれも結晶性固体として得られ、簡便な濾過操作のみで単離可能であるという点でも優れている。本合成法によりDATBの迅速な構造修飾が可能になったことから、今後系統的な誘導体合成により、より高いアミド化活性を有する触媒を導出する。 4.新型コロナウイルス感染症治療薬を目指した新規フラーレン誘導体の創製 新型コロナウイルス感染症(Coronavirus disease 2019: COVID-19)は、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(Severe acute respiratory syndrome coronavirus 2: SARS-CoV-2)を原因ウイルスとする急性呼吸器疾患である。 6 分子創成化学講座 186 分子創成化学講座COVID-19治療薬として、SARS-CoV-2の生活環のさまざまな点を標的とした抗ウイルス薬の開発

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