6年制薬剤師養成課程である薬学科、ならびに創薬研究者を目差す薬科学科の共通必修科目として、当講座は有機化学の基礎をベースとした生物有機・無機化学、医薬品化学(モデル・コアカリキュラムC4)などの分野を担当している。これらは創薬研究者を目指す薬科学科にあっては当然必須の分野であるが、医薬品の適正使用に関わる薬学科学生にとって医薬品を構造から理解することも重要である。Ⅰ.教育について 自己点検・評価 が進められているが、抗ヒト免疫不全ウイルス(HIV)薬や抗C型肝炎ウイルス(HCV)薬の転用例の報告も多い。中でもSARS-CoV-2のメインプロテアーゼ(Mpro)は、抗ウイルス薬の標的として有望であると考えられており、実際に日本でもMproを標的とした治療薬が既に承認されている。 一方、フラーレンは、Krotoらにより発見されたサッカーボール型のC60に代表される第3の炭素同素体である。その球状の縮合芳香環構造に由来した物理化学的性質は非常にユニークであり、さまざまな分野で応用研究が行われている。創薬分野においても、既存の医薬品にはない新奇の骨格であるフラーレンの医薬品応用を目指し、その水溶性の低さを化学的誘導体化により改善した多くの水溶性誘導体が合成され、その生物活性が調べられてきた。我々はこれまでに、さまざまなC60誘導体が、HIVやHCVに対する抗ウイルス活性を有することを明らかにしてきた。我々は、前述の通り抗HIV薬や抗HCV薬がCOVID-19治療に転用できることが報告されていることから、HIVやHCVに対する抗ウイルス活性を有するC60誘導体も、COVID-19の治療薬候補となる可能性があると考えて検討を行っている。本年度も2021年度に引き続き、新規に合成した誘導体のCOVID-19治療薬としての応用の可能性を、Mproに対する阻害作用を指標として検討した。 まず新規のC60誘導体として4種の誘導体を合成した。そのうち1つはC60の5員環と6員環の接合部([5,6]-結合)の炭素-炭素結合が開裂し窒素で架橋されたアザフレロイドと呼ばれる化合物群である。アザフレロイドはC60本来の60π電子共役系を維持しており、生物活性の点でも興味深い誘導体群である。Mpro阻害活性は、Mproおよび被験化合物を含む反応液にSARS-CoV-2 Mproに認識、切断される12残基の基質ペプチドを加えてペプチドを切断し、生成したペプチド断片をLC-MSのSIMモードで定量することで評価した。 その結果、新規に合成した4化合物中3化合物はそれほど強い阻害作用を示さなかった。一方、残りの1つであるアザフレロイドは比較的強い阻害作用を示した。アザフレロイドの生物活性の報告はほとんどないため、本結果は興味深い知見と言える。前年度までの結果と合わせて考察すると、さまざまなC60誘導体がMpro阻害作用を示し、その強さは誘導体により異なることが示された。 また、C60誘導体のMpro阻害作用に関して、鏡像異性体間で差があるかを、阻害作用が比較的強い誘導体を用いて検討した。キラル固定相を有するHPLCで光学分割後、各異性体のMpro阻害作用を確認したところ、両異性体間に顕著な差は見られなかった。このように、今回の検討からは異性体間における活性の差は見られなかったが、これまでの我々の研究において、C60誘導体の立体異性体間におけるウイルス酵素に対する阻害活性の差は、誘導体や酵素によって異なることが示されている。したがって、今後他の誘導体に関しても同様に検討していく必要があると考えられる。 具体的には「生物有機化学(生体分子の化学構造)」「生物有機化学(生体分子の化学反応)」「医薬品化学1」「医薬品化学2」の4科目で2年春学期前半から始まり順次進行し3年春学期前半で終了する。一連の講義を通して生体分子の働きや医薬品の作用を化学的な視点で理解できることを目標とし分子創成化学講座 7 分子創成化学講座 187
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