慶應義塾大学薬学部 教育・研究年報2022
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Ⅱ.研究について ている。特に薬剤師国家試験はここ数年、生物有機化学や医薬品化学関連分野の出題が増えており、その重要性を学生にも強調した。 「精密有機合成」は薬科学科では必修科目であるが、薬学科では選択科目である。本科目を3年次までの有機化学系講義の総仕上げと位置付け、複数の反応を組み合わせて標的化合物の合成ルートを考案できる力を身につけることを目標としている。加えて、実際の有機合成において重要となる化学・位置・立体選択的反応についても重点的に説明した。 「医薬品製造化学」は、実際の医薬品合成例およびそれらの合成で頻用される重要な反応について、および産業スケールでの医薬品製造法を検討するプロセス化学についての発展的な講義であり、薬科学科・薬学科ともに選択科目である。上述の「精密有機合成」で学習した事項は理解している前提で講義しているが、開講時期の関係上「精密有機合成」を履修していない薬学科生が受講することが多い。そこで「精密有機合成」を選択しなかった学生のために、「精密有機合成」で講義していた内容の一部を「医薬品製造化学」でも繰り返し講義した。 「医薬分子設計化学」は上記4科目のアドバンスト科目であり、卒業後に製薬企業で新薬開発の探索段階にたずさわる学生向けの講義である。講義内容を覚えるのではなく理解することに重点を置き、試験にノートとプリントの持ち込みを認めた。 本年度は、各種キノリンオリゴマーおよびそれらから派生した立体型環状芳香族分子の合成に成功し、機能開拓に向けた道筋を整えた。蛍光性化合物C4N4については、蛍光プローブとしての実用可能性を示す複数の成果を得ることができ、発光・消光メカニズムの完全解明に向けた実験事実を着実に蓄積している。特異なヘテロ6員環分子DATBのコア構造であるB3NO2環を基軸とした骨格改変により複数の新規ヘテロ環構築に成功した。またDATBの自在な構造修飾を可能にする新たな合成法を確立した。COVID-19治療薬への応用を志向して新規C60誘導体を合成し、これまでほとんど検討例のないアザフレロイドが高いMpro阻害作用を示すことを見出した。総じて、今後さらに研究を発展させるための種となる多くの成果を得ることのできた1年だったと言える。研究業績に記載されているように、多くの論文発表と学会発表をすることができた。なお、前年度はCOVID-19の影響でほとんどがオンライン開催だった学会が、今年度は徐々に現地開催方式に戻り、発表する学生達もより高いモチベーションを持って発表に臨めたものと推察する。 前年度からの懸案事項であった不活性ガス配管については年度初頭に設置を完了し、より迅速に有機合成実験を実施できる体制が整った。また、フラッシュ自動精製装置を1台増設し、装置の待ち時間を大幅に削減することで実験効率を改善した。その他経年劣化した器具・装置の更新・増設やデスク・実験スペースの小規模な改修を随時実施した。 8 分子創成化学講座 188 分子創成化学講座2021年度は、主に1. キノリンを構成単位とする機能性分子構築、2. ジアミノピリミジン構造を有する蛍光性分子(C4N4化合物)の機能多次元化、3. 新奇ヘテロ環化合物合成とその機能開拓、4. 新型コロナウイルス感染症治療薬を目指した新規フラーレン誘導体の創製の4つのテーマについて研究を進めた。

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