Ⅰ.教育について Ⅱ.研究について 改善計画 「有機化学3」では代表的な機器分析法であるMS、IR、NMRの原理や基本知識を習得させているが、最終的にはデータの解析法を身に着けそれをもとにした構造推定ができることが目標である。そのためには、時間をかけて様々な問題を実際に解いてもらう演習が必要であると考え「医薬品化学実習」の中でMS、IR、NMRそれぞれについて演習の時間を設けている。MSやIRと比較すると、NMRの解析法の習得には時間を要しNMRを苦手とする学生が多く見られるので、次年度よりMS、IRの演習に充てていた時間をNMR演習に振り分ける。 当講座が主に担当している生物有機化学、医薬品化学の分野は薬剤師国家試験でも出題が増えており、創薬研究者を目指す薬科学科生だけでなく、薬の適正使用に関わる薬学科生にも重要であるので、洗練された教育法の確立が今後一層求められる。これらの分野のうち、必修科目である「生物有機化学(生体分子の化学構造)」「生物有機化学(生体分子の化学反応)」「医薬品化学1」「医薬品化学2」の4科目は2年春学期前半から始まり順次行われ3年春学期前半で終了することになる。薬科学科の学生はこれに加え「精密有機合成」を必修科目としている。この科目は、薬学科の学生にとっても有機化学の総復習という位置づけで選択できる。さらに、アドバンストな内容で、製薬企業の研究開発職を目指す学生のために、3年春学期後半に「医薬品製造化学」と「医薬分子設計化学」を選択科目として受講できる。これらの講義により薬剤師を目指す学生には医薬品を構造から理解することが可能となり、創薬研究者を目指す学生にとっては医薬品のデザインを考えることができる体制となっている。上記科目のうち両学科の必修科目である4科目は、医薬品の働きを理解するための化学的基盤として特に重要である。そのため担当授業概要でも述べた通り、各科目において化学的な視点を養うことに重きを置いて講義している。「授業を改善するための調査」で学生から寄せられた意見を分析すると、有機化学への興味の強い学生には授業内容が高く評価された一方で、化学を苦手とする学生にとってはやや難しく感じられたようである。全ての学生が十分に理解できる授業内容にするための工夫は今後も継続しなければならないが、同時に有機化学そのものに対する興味・関心を向上させるための方策が必要と思われる。「精密有機合成」は標的化合物を合成する合成経路を考案する力を身につけることを目標としており、やや応用的な学習項目を含むが、有機化学分野の復習も兼ねた基礎的事項も織り交ぜた授業内容となっている。しかし、今年度の定期試験では有機化学の基礎的な知識が極端に不足していると思われる答案が目立ち、学生の学力に関してやや不安が残る結果となった。前述の内容と関連し、しっかりとした有機化学の基礎力を身につけられる教育方法を模索する必要がある。 今年度は各種キノリンオリゴマーならびに類縁体の合成を達成しており、次年度はその機能開発を重点的に進めていく。平面環状分子であるTQを原型として、酸素原子を挿入し立体形状を付与したoxa-TriQuinoline(oTQ)は、Cu(I)塩との錯形成によりボウル状のコンフォメーションを取り、湾曲π分子であるスマネンやフラーレン誘導体との超分子錯体の形成、凝集誘起発光(AIE)等の興味深い物理化学特性を示す。最近Cu(I)/oTQ錯体によって効率的に触媒される分子変換を見出しており、多機能性大環状配位子の新たなプラットフォームとして発信していく。次年度以降は酸素原子以外の種々のヘテロ原子で置換した類縁体合成と機能開発を進める。TQの誘導体化を行う過程で、TQの3分子創成化学講座 9 分子創成化学講座 189
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