研究概要 薬剤学講座において本年度行った研究のうち主なものを以下に記す。 プロスタグランジンE2 (PGE2)の作用は多彩であるが、これはPGE2の受容体(EP)にEP1、EP2、EP3、及びEP4の4種のサブタイプがあり、それぞれ発現部位や下流シグナルが異なることに一因がある。そのため、PGE2産生部位の近傍に発現する受容体を同定することは、PGE2による作用発現機構を理解する上で重要である。本研究では、胎盤の着床連結帯に発現するPGE2受容体を同定し、着床連結帯のPGE2受容体を介したシグナルがPL-Ⅱの産生に及ぼす影響を解析することを目的とした。 妊娠15.5日目のマウス胎盤における各EPのmRNA絶対発現量を比較したところ、EP3 mRNAの発現量が最も高く、EP2及びEP4のそれぞれ約1000倍及び60倍であった。EP1 mRNAは検出限界以下であった。また、EP3のmRNA発現量は、脱落膜及び迷路部と比較して、着床連結帯において最も高いことが示された。EP3タンパクの発現は、妊娠15.5日目マウス胎盤の着床連結帯及び脱落膜において検出された。さらに、妊娠11.5日目から19.5日目のマウス胎盤の着床連結帯におけるEP3及びPL-Ⅱ mRNAの発現推移を評価したところ、両者のmRNAの発現量は、いずれも妊娠初期から妊娠中期にかけて増加し、妊娠後期にかけて減少した。 以上より、マウス着床連結帯において、妊娠初期から中期にかけてEP3の発現が増加することでPL-Ⅱの産生量が増加し、妊娠中期から後期にかけてEP3の発現が減少することでPL-Ⅱの産生量が減少している可能性があると考えられた。 メチルマロン酸(methylmalonic acid, MMA)血症は新生児期から乳幼児期に発症する先天性有機酸代謝異常症である。特徴的な症状に近位尿細管で観察される慢性進行性の腎障害があり、進行に伴い末期腎不全に至りうる。MMAは腎排泄により体内から消失するが、ネフロンにはMMAの再吸収及び分泌の過程が存在することが示唆されている。本研究では、近位尿細管に発現するトランスポーターに着目し、近位尿細管上皮細胞に対するMMA取り込み機構を解析することを目的とした。 ラット腎皮質切片による[14C]MMAの取り込みは、有機アニオン輸送系阻害剤であるprobenecidの存在下およびNa⁺非存在下で有意に低下した。ヒトOAT1及びOAT3の発現細胞による[14C]MMAの細胞内取り込みを検討した結果、OAT1を介した取り込みが示された一方、OAT3を介した[14C]MMAの取り込みは示されなかった。また、ラット腎皮質切片による[14C]MMA取り込みにNa⁺依存性も示されたことから、近位尿細管の側底膜に発現するヒト及びラットNaDC3の発現細胞を作製し、[14C]MMAの取り込みを評価した。ヒト及びラットNaDC3の過剰発現によって、細胞内への[14C]MMAの取り込みは有意に増加した。以上から、OAT1及びNaDC3がMMAを基質認識することが示され、これらのトランスポーターが血液中から近位尿細管上皮細胞内へのMMA取り込みに関与する可能性が示された。 Ⅰ.マウス胎盤に発現するプロスタグランジンE₂受容体の同定とホルモン産生に及ぼす影響 Ⅱ. 近位尿細管上皮細胞に対するメチルマロン酸取り込み機構の解析 薬剤学講座 5 薬剤学講座 197
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