6 薬剤学講座 198 薬剤学講座有機カチオントランスポーターOCTN1 (SLC22A4) は胎盤を含む種々の臓器に発現し、エルゴチオネイン (ERGO) を内在性基質とする。ERGOは食事由来の抗酸化物質であり、子宮灌流圧低下に伴う妊娠高血圧腎症モデルラットで観察される胎仔成長遅延を改善することが報告されている。本研究では、OCTN1遺伝子欠損マウスを用いてERGOの胎盤透過機構を明らかにするとともに、OCTN1欠損が胎仔成長に与える影響を解析することを目的とした。 妊娠18.5日目において、野生型マウスにおけるERGOの母体胎児血漿中濃度比(F/M ratio)は2.6であった。ERGO投与時のOCTN1欠損マウスにおける母獣血漿中ERGO濃度推移は2倍以内の変動であり、定常状態だと判断した。ERGO投与時のOCTN1欠損マウスにおけるF/M ratioは0.54であり、野生型マウスに比べて低いことが示された。なお、ERGO非投与時のOCTN1欠損マウスにおいて、母獣・胎仔血漿中ERGO濃度は、検出限界 (20 nM) 以下であった。以上より、OCTN1を介したERGOの母獣から胎仔への移行機構の存在が示された。 胎盤と母体子宮の境界である脱落膜において、制御性T(Treg)細胞の減少は流産に関与するため、脱落膜Treg細胞の誘導は流産予防につながる可能性がある。本研究では自然流産モデルマウスを用いて、Treg細胞の誘導能があるとされる短鎖脂肪酸が、脱落膜T細胞および胎仔吸収に与える影響を解析することを目的とした。 自然流産モデル (CBA/J×DBA/2J)、対照群(CBA/J×BALB/c)、および妊娠0.5~14.5日目まで短鎖脂肪酸(SCFAs)混合液を飲水投与したマウスの胎仔吸収率(胎仔数/着床部位数)を算出し、脱落膜T細胞の割合をFACSで解析した。対照群および流産モデル群の胎仔吸収率は、10%および27%であり、胎仔吸収を呈した個体は、それぞれ56%および100%であった。SCFAsを投与した流産モデル群の胎仔吸収率は11%と、対照群と同程度まで低下し、胎仔吸収を呈した個体は60%にまで低下した。一方、胎仔吸収を受けていない脱落膜中のCD4⁺T細胞に占めるTreg細胞の割合は、対照群において8.2%、流産モデル群において6.2%であり、さらに流産モデル群へのSCFAs投与時において8.4%であった。脱落膜CD4⁺T細胞に占めるTh17細胞の割合は、流産モデル群、対照群、およびSCFAs投与群で差が示されなかった。 自然流産モデルマウスへのSCFAs投与によって、胎仔吸収率の低下が示されたことから、SCFAsは流産改善に有効である可能性がある。SCFAs投与が脱落膜Treg細胞に与える影響はさらに検討が必要である。 Ⅲ.OCTN1 を介したエルゴチオネインのマウス胎盤透過機構の解明 Ⅳ.短鎖脂肪酸がマウス流産率および脱落膜免疫細胞に与える影響
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