慶應義塾大学薬学部 教育・研究年報2022
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2022年度は学部生16名、大学院生2名が在籍して研究活動を行った。 (1)自然言語処理システムを用いた医療文書の病名・症状の分析 他学部・研究科出講 臨床薬剤学 [春学期(医学部)分担:青森] 臨床薬理学 [秋学期(健康マネジメント研究科)分担:青森] 研究概要 医薬品の投与において、副作用の管理は重要である。症状の第一発見者である患者の言葉から副作用の可能性に気づくことができれば、早期発見と不利益の最小化が実現する。そのためには、自然言語処理技術を用いて患者の言葉から病名や症状を抽出し、副作用の可能性を判定することが有用である。本研究では特に副作用情報を多く含む薬剤師記録のような医療テキストから病名・症状を抽出し、所見の有無を文脈から判断する仕組みの構築を目指す。 (2)抗悪性腫瘍薬前投薬の最適化 抗体製剤の特徴的な副作用にインフュージョン・リアクション(IR)がある。IR予防のためには抗ヒスタミン薬(抗ヒ薬)、副腎皮質ステロイド、解熱鎮痛薬等による前投薬が必要であるが、前投薬に汎用されている鎮静性抗ヒ薬は眠気が長く続く可能性やインペアード・パフォーマンスが指摘されている。また、非鎮静性抗ヒ薬を前投薬に用いた場合の有効性・安全性に関するエビデンスは不十分である。本研究では、ダラツムマブ皮下注製剤を投与した患者の有害事象を調査し、鎮静性または非鎮静性抗ヒ薬を前投薬に用いた場合の有害事象の発現状況を調査する。 (3)オンライン服薬指導におけるコミュニケーションのあり方に関する研究 2020年9月より、テレビ電話等を用いたオンライン服薬指導が解禁となった。服薬指導は短時間で多くの情報を正確にやり取りしなければならないが、患者・薬剤師ともにディスプレイ越しにこれを行うことは未経験である。コミュニケーションエラーが時に重大な医療事故の原因となることはよく知られている。本研究ではオンライン服薬指導の実態を明らかにし、対面と同等の服薬指導が実施できるオンラインによるコミュニケーションの確立を目指す。 (4)病院における転倒・転落の背景因子に関する研究 「転倒・転落」は主要な院内医療事故の一つであり、新たな検査や治療が必要となるだけではなく、疾病の回復遅延や日常生活動作の低下、医療費の増加など、患者に様々な悪影響を及ぼす可能性がある。高齢者における転倒・転落の約30%に打撲や擦過傷などの軽度の傷害が,また約10%に骨折や頭部外傷などの重大な傷害が発生しているとの報告もある。日本では急激な高齢化に伴い、入院患者全体に占める高齢者の割合も増加しているため、入院中の転倒・転落を予防することは、医療安全にとって重要な課題である。この研究では、入院中の患者が院内において転倒・転落した場合の発生状況を解析し、患者背景や使用薬剤との関連を検討する。 (5)医療現場における血中薬物分析システムの評価 薬物治療を有効かつ安全に実施する上で薬物血中濃度の測定に基づく治療薬物モニタリングは重要な役割を担っている。日立ハイテクサイエンスが開発した「LM1010」はHPLC-UV法を採用し、測定する薬物の種類によらずほぼ同一の前処理方法で迅速に血中濃度測定ができる。本研究では慶應義塾大学病院薬剤部と共同で、実際の臨床検体について外注検査で得られた測定結果とLM1010にる測定結果を比較し、同等の測定が可能であるかを検証する。 2 病院薬学講座 204 病院薬学講座

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