慶應義塾大学薬学部 教育・研究年報2022
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②m-ホモプレニルフェノール類の酸化的芳香族求核置換による分子内環化反応の開拓 m-ホモプレニルフェノール類を原料とし、分子内酸化的芳香族求核置換反応によって二環性骨格を構築する手法を開発した。m-ホモプレニルフェノール類に対し、超原子価ヨウ素酸化剤を作用させる本手法を応用し、含窒素テルペノイドのテトラペタロンAの部分骨格の構築にも成功した。 生物活性物質・医薬・機能性物質骨格形成反応の開発 生物活性物質、医薬、機能性物質の骨格形成に有用な合成反応の開発と、その性質の探索に取り組み、以下の成果を得た。 ①ホウ素化糖を用いるアリールC-グリコシド合成法 アリールC−グリコシド類は、種々の生物活性天然有機化合物に部分構造として含まれ、医薬品にも応用されている有用な化合物である。このようなアリールC−グリコシドのβ体を、臭化グリコシルを原料とする立体選択的なホウ素化と、続く臭化アリールとの立体特異的クロスカップリングにより合成する手法を開拓した。ヒドロキシ基をピバロイル基、ベンジル基で保護したα-臭化グリコシルを原料とし、銅触媒、ポリスチレン担持型ホスフィン配位子、ビスピナコラートジボロンを用いてホウ素化すると、β体のホウ素化糖が立体選択的に得られた。得られたホウ素化糖と臭化アリールをパラジウム触媒を用いてカップリングし、アリールC−グリコシドのβ体のみを立体特異的に得た。本クロスカップリングは種々の臭化アリールとのカップリングに適用可能であった。本手法を応用し、糖尿病治療薬として用いられているカナグリフロジンを合成した。 とアルケンを求核種とする環化が進行し、二環性化合物が得られた。本反応は種々の置換基を有するフェノール類に適用可能で、五〜七員環、複素環などさまざまな二環性化合物の合成に有用であった。③カルボン酸塩化物を用いたアシルトリフルオロホウ酸カリウム(KATs)の新規触媒的合成 ペプチド修飾や発光色素の合成に有用なKATsをカルボン酸塩化物から一段階で合成する手法を開拓した。種々の置換基を有する芳香族カルボン酸塩化物、脂肪族カルボン酸を原料とし、ヨウ化銅、ポリスチレン担持トリフェニルホスフィン、ビスピナコラートジボロンを用いてホウ素化し、続くトリフルオロホウ酸塩への変換により、KATsを合成した。 ④o-置換キノール類の1,2-転位による置換カテコール類合成法の開拓 o-置換フェノール類からo-置換キノールを経由する、置換カテコール類の二段階合成法を開拓した。o-置換フェノール類にメタノール中、2-ヨードキシ安息香酸を作用させると位置選択的水酸化が進行してo-キノールを生じ、さらにDiels-Alder反応が進行した二量体が得られた。o-キノール二量体をトルエン中、加熱することにより、逆Diels-Alder反応と続く1,2-転位が進行し、置換カテコール類を得た。本反応は、種々の置換基、置換様式を持つ置換カテコール類の合成に適用可能であった。 ⑤置換ベンジル類の発光特性の探索 独自に開発した、有機還元剤を用いた熱的ピナコールカップリング反応を応用し、種々の置換基を有する置換ピリジンを合成し、その固体発光特性を探索した。メタ置換体においては、置換基の種類によって、発光の種類(リン光または蛍光)が変化することを見出した。一方、オルト置換体は蛍光を示し、置換基の種類によって発光波長が顕著に短波長または長波長にシフトすることを見出した。量子化学計算より、励起一重項と励起三重項のエネルギー差、励起一重項の高さが置換基によって変化し、これらの性質を生じることを明らかにした。また、トリフルオロメチル基を有するパラ置換体は、機械的刺激による結晶構造から非晶質への変化に伴って、発光が緑から黄色に変化し、室温下数分で元の有機薬化学講座 5 有機薬化学講座 29

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