慶應義塾大学薬学部 教育・研究年報2022
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研究概要 医薬分子設計化学 [春学期後半(1単位・選択)、科目責任者:熊谷] 植草2回担当 創薬研究に必要な分子構造解析の習得を目的に,機器分析を用いた高度な解析法について講義した.核磁気共鳴(NMR)の講義では,二次元NMR法等を用いた化合物の構造決定,ならびにNMRを用いたタンパク質と生理活性物質との相互作用解析への応用について講義した.質量分析(MS)の講義では,様々な測定法を解説するとともにプロテオミクスの手法について概説し,タンパク質の一次構造決定やタンパク質修飾など生体分子解析への質量分析の応用について講義した. 日本薬局方 [秋学期後半 (1単位・必修)、科目責任者:石川] 菊地1回担当 日本薬局方における生薬に関連する規定について,生薬総則並びに生薬試験法を中心に、特に生薬以外の化学医薬品との違いに重点を置いて講義した. 本年度は大学院対象の化学系講義科目は開講されなかった.また,今年度は講座に所属する大学院生がおらず,演習・課題研究の対象となる学生も居なかった. 1) 未利用・希少生物種による新たな創薬資源の開拓 新たな創薬資源として,植物や菌類・細菌など従来の天然化合物探索に利用されてきた生物とは異なる「未利用生物」に着目し,これらの生物が産生している化合物を探索し,新規創薬資源として開拓することを目的とした研究を行っている. 細胞性粘菌は土壌中に広く存在する原生生物であるが,従来の天然物化学研究に用いられることは無かった未利用生物である.我々はこれまでに細胞性粘菌が多様な生物活性物質を産生していることを明らかにしているが,さらに多くの有用化合物を取得するため培養条件の変化による二次代謝改変を試みている.特徴的な塩素原子含有レゾルシノール誘導体monochasiolを生産する細胞性粘菌 Dictyostelium monochasioidesについて,種々の脂肪酸を培地中に添加して培養することで,添加した化合物を生合成原料として新規monochasiol類が取得できることを期待し,現在生産された成分を検討中である. 卵菌もまた原生生物の一種であるがストラメノパイルと呼ばれる真核生物の一群に属しており,細胞性粘菌とは全く異なる天然化合物の産生が期待できる.独立行政法人製品評価技術基盤機構バイオテクノロジーセンターより入手した14種の卵菌類について,大型三角フラスコを利用した振盪培養が可能な条件を検討した.その中でも安定して培養できた種の1つであるミズカビ科 Saprolegnia terrestris について10Lスケールでの培養を行い,産生している低分子化合物の分離・精製を試みた.その結果,細胞膜成分だと思われるアシルグリセロール誘導体に加え,高度に酸化されたテルペノイド,ステロイド類の存在が確認された.単離された量が微量であったため正確な化学構造の決定には至らなかったが,卵菌類が新規二次代謝産物の生産に有用であることが示唆された. 2) 天然化合物を基盤とした多様性指向型合成による新たな創薬資源の開拓 多様性指向型合成は,一つの出発物質から多数の分子骨格の異なる化合物を生み出すための合成手大学院 天然医薬資源学講座 3 天然医薬資源学講座 39

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