JAK2の変異がMPNの発症へと至る分子機構には不明な点が多い。これまでに、MPNの治療薬としてJAK2阻害剤Ruxolitinibが開発されているが、その治療効果は低く、より効果的なMPN治療薬の開発が求められている。また、融合型チロシンキナーゼであるNPM-ALKやBCR-ABLは、それぞれ未分化大細胞リンパ腫 (ALCL) や慢性骨髄性白血病 (CML) の原因遺伝子産物であることが知られている。ALCLやCMLの治療薬として、ALK阻害剤やBCR-ABL阻害剤が用いられているが、これらの阻害剤の長期投与における耐性の出現が問題となっている。そこで、JAK2変異体、NPM-ALK、BCR-ABLによる発がんシグナルを解明し、新たな治療標的分子の同定を介して、新規治療薬の開発を目指す。 ① JAK2V617F変異体によるRNAヘリカーゼDDX5を介した発がんシグナルの解析 JAK2点変異体発現Ba/F3細胞およびMPN患者由来HEL細胞において、DNAヘリカーゼであるDDX5の発現が亢進することを見出した。DDX5は、大腸がんや乳がんなどにおいて高発現しており、形質転換に関与することが報告されている。JAK2点変異体発現Ba/F3細胞やHEL細胞において、転写因子STAT5の活性化がDDX5タンパク質の安定化に寄与することを明らかにした。また、shRNAを用いてDDX5をノックダウンすると、JAK2点変異体発現Ba/F3細胞の増殖能や腫瘍形成能が顕著に低下することを見出し、DDX5がMPNの新しい治療戦略となる可能性を示した (Takeda et al. Cell Signal. 2023)。また、一方で、DDX5は、グルココルチコイド受容体 (GR) のコアクチベーターとして機能し、脂肪細胞の分化を誘導することを新たに見出した(Hokimoto et al. FEBS J. 2023)。現在までに、DDX5が誘導する細胞増殖や腫瘍形成の分子機構は不明であり、今後、継続して、MPNにおけるDDX5の役割を解析する予定である。 ② NPM-ALKによる転写因子STAT3を介した発がん誘導シグナルの解析 NPM-ALKは、転写因子STAT3を介して、形質転換を誘導する強力ながん遺伝子産物である。これまでに、NPM-ALKは、STAT3のY705、T714、S727のリン酸化やK685のアセチル化を誘導することを見出しているが、NPM-ALKによる細胞増殖や腫瘍形成におけるこれらのSTAT3の翻訳後修飾の生理的意義は不明であった。NPM-ALK発現Ba/F3細胞において、shRNAを用いてSTAT3をノックダウンした後に、野生型STAT3やSTAT3変異体(Y705F、S727A、K685R)を再構成することにより、NPM-ALKによる発がん誘導に及ぼすSTAT3のリン酸化やアセチル化の影響を検討した。NPM-ALKが示す形質転換において、NPM-ALKによるSTAT3のY705およびT714のリン酸化は必須の役割を果たし、K685のアセチル化は抑制的に機能することが明らかになった。現在までに、NPM-ALKが示す形質転換におけるSTAT3の重要性は報告されているが、発がん誘導に関わるSTAT3の標的遺伝子は同定されていない。今後、NPM-ALKによるSTAT3標的遺伝子産物を介した発がん誘導機構を解明することを目指す。 ③ フラーレン誘導体によるBCR-ABL陽性CML細胞のアポトーシス誘導機構の解析 本学医薬品化学講座で合成されたビスピロリジニウム型フラーレン誘導体 (BPF) は、活性酸素種(ROS) の産生を介して、BCR-ABL陽性CML患者由来K562細胞のアポトーシスを誘導することを見出した。BPFは、ROS産生を介して、BCR-ABLの分解を誘導し、K562細胞のアポトーシスを誘導することを明らかにした (Sumi et al. Eur J Pharmacol. 2022)。また、BPFは、ROS産生とは非依存的な経路で、MEK-ERK経路の活性化を誘導し、K562細胞のアポトーシスを引き起こすことを明らかにした。さらに、BPFは、ROS産生およびMEK-ERK経路の活性化という2つの経路を介して、BCR-ABL衛生化学講座 3 衛生化学講座 45
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