慶應義塾大学薬学部 教育・研究年報2022
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① ヘスペレチンによる白内障予防効果の解析 Ⅰ.教育について 阻害剤に耐性を示すgatekeeper変異を有するBCR-ABL T315I変異体を発現した細胞においても、顕著なアポトーシスを誘導することを見出した (Sumi et al. Int J Mol Sci. 2022)。以上より、BPFが新規のCML治療薬として応用できる可能性が示唆された。 Ⅱ.水晶体の生理学的解明と疾病予防 水晶体は眼部の前面に位置し、入射光を屈折させる役割を持つ。その光学特性がゆえ、常に厚さを変えて焦点を合わせる必要があり、また透明であり続ける必要がある。しかし、紫外線などの長年の酸化ストレスによって水晶体混濁が生じ、視機能が大きく低下する。水晶体混濁による視機能低下は白内障と呼ばれ、高齢者でよく認められる疾患である。これまでにいくつかの医薬品が白内障に対しての適応が認められているが、その治療効果に疑問視する臨床医も多く、新たな医薬品の創製が求められている。一方、点眼剤は、主成分のほとんどが点眼直後に涙と共に排泄され、また角膜透過性も低く、実際に水晶体に届く濃度は0.1%程度と報告されている。そこで本年度は、白内障予防サプリメントの創製を目指し、マウスへの投与による影響を検討した。また、白内障はその発症前に強い老眼症状を示すことが知られているが、老眼の発症メカニズムはほとんど解明されていない。そこで本年度は、老眼の発症メカニズムの一因を解明するとともに、老眼モデル動物の可能性について検討した。 これまでにみかんの果皮に多く存在するヘスペリジンに強い白内障予防効果があることを見出している。ヘスペリジンは抗酸化作用のほか、ビタミンC保護作用や血管拡張作用など多くの健康増進作用が報告されているが、水晶体に着目した研究はこれまで報告されていなかった。本年度は、若年マウスに水溶性ヘスペレチンを自由飲水させた結果、加齢による水晶体硬化が水溶性ヘスペレチン投与で抑制されることが明らかとなった。さらに、水晶体タンパク質への糖付加反応(Advanced Glycation End Products: AGEs)化の対するヘスペレチンの抑制効果も明らかとし、現在論文を執筆中である。今後、さらなる抗老眼メカニズムを検討し、抗老眼薬/サプリメント創製を目指す。 ② 老眼発症メカニズムの解析 老眼は、早い人で35歳から発症する発症率ほぼ100%の眼疾患である。老眼は、水晶体硬化による近方距離の焦点調節不全であり、老眼患者は老眼鏡や老眼用コンタクトレンズで近方視を補う必要がある。しかし水晶体硬化のメカニズムは不明である。今年度はその硬化メカニズムを解明するため、Piezoチャネルに着目した。Piezoチャネルは、脳や肺の加齢性組織硬化疾患に寄与することが報告されているため、水晶体硬化にも起用すること推察される。そこで水晶体のPiezoチャネルの機能を解析した。その結果、Piezoチャネルを活性化すると、タンパク質架橋化酵素の一つであるTransglutaminase 2 (TGM2)の発現と活性が上昇することが示された。今後、TGM2誘導の分子メカニズムを解明するとともに、マウスを用いてPiezo1活性化による水晶体への影響を検討し、2023年中の論文投稿を目指す。 自己点検・評価 学部唯一の衛生薬学関連講座として、衛生化学関連の講義・実習を担当している。今後、薬学における予防衛生、食品衛生、環境衛生の重要性はますます増大するものと予想され、衛生薬学関連の教育体4 衛生化学講座 46 衛生化学講座

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