自己点検・評価 Ⅰ.教育について 培養によるEMT細胞のGPX4阻害剤低感受性に、細胞内glutathione量は関与しないことを示唆している。そこで、spheroid培養時の細胞増殖を抑制する薬剤を探索したところ、BET阻害剤JQ1から合成されたPROteolysis TArgeting Chimeras(PROTAC)であるdBET6を同定した。dBET6は、HCT116細胞、EMT細胞のspheroid培養時のGPX4阻害剤感受性を増大させた。また、この効果は通常培養時においても認められた。以上から、dBET6によるGPX4阻害剤への感受性化に関わる分子機構を明らかにすることが、腫瘍環境におけるGPX4阻害剤の効果増強につながると考えられた。 Ⅳ. Pan-HDAC阻害剤によるABCG2の発現減少と抗がん剤感受性の増大 ABCG2は、抗がん剤多剤耐性に関与する薬物排出トランスポーターである。ABCG2を発現しているA549細胞、HT29細胞では、ABCG2の発現がSN-38やmitoxantroneに対する耐性に関与していることが考えられた。そこで、ABCG2の発現を低下させ、これらの抗がん剤の細胞増殖抑制効果を増強可能な薬剤を探索した。その結果、histone deacetylase(HDAC)を包括的に阻害可能なpanobinostat、dacinostatを見出した。Panobinostat、dacinostatは、ABCG2のmRNA量を減少させたことから、ABCG2の転写を阻害することでタンパク質の発現レベルを低下させることが考えられた。また、panobinostat、dacinostatは、細胞膜上のABCG2の発現を低下させ、mitoxantroneの取り込み量を増加させた。また、panobinostat、dacinostatを処理したA549細胞、HT29細胞では、SN-38、mitoxantroneに対する感受性が増大した。以上の結果は、panobinostat、dacinostatは、ABCG2の発現を低下させることで、抗がん剤の細胞外への排出を抑制し、抗がん剤の細胞増殖抑制効果を増強することを示している。次に、panobinostat、dacinostatによるA549細胞、HT29細胞のside population(SP)細胞の割合の変動について検討した。SP細胞は、Hoechst33342で低染色性の細胞である。SP細胞は、ABCトランスポーターを高発現していることから、薬剤抵抗性であり、再発の原因となることが考えられている。そこで、A549細胞からSP細胞を分取し、ABCG2の発現を検出したところ、SP細胞では、non-SP細胞に比べABCG2が高発現していた。次に、A549細胞にpanobinostat、dacinostatを処理したところ、SP細胞の割合が減少した。以上の結果は、panobinostat、dacinsotatは、ABCG2の発現を低下させることでSN-38、mitoxantroneの抗がん効果を増強することが考えられた。 化学療法学講座は、感染症と悪性腫瘍の原因、病態および治療に関する講義を行っている。これは、「微生物学」、「化学療法学1」「化学療法学2」「化学療法学3」の4単位である。2022年度は、新型コロナウイルス感染症の流行が鎮静化に向かい、学部の講義は対面で行われた。 この4単位の講義は体系的に構築されており、薬の講義とそれを用いる疾患の講義を併せて行っている。改訂薬学教育モデル・コアカリキュラムでは、薬理学と病態・薬物治療を同時に学ぶプログラムとなっているが、この4単位の講義は以前からそうした形態を取り入れているため、カリキュラムの移行は問題なく行われた。またこの4単位の講義は、薬学部における感染症と悪性腫瘍の化学療法の教育としてはボリュームが多い。感染症と悪性腫瘍に対する化学療法は、致命的な疾患を薬で治療するという、これまで薬学が人類に非常に大きな貢献をしてきた分野である。また多くの抗悪性腫瘍薬は副作用も強く、処方の誤りや予期せぬ薬物相互作用が不幸な結末に直結することから、この分野に化学療法学講座 5 化学療法学講座 93
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