平均寿命の伸長・高齢化社会の到来とともに、神経変性疾患の有病率は増加しています。神経変性疾患は、様々な機能障害を引き起こして著しいQOL(生活の質)の低下を招くため、新しい治療法の開発が求められているアンメット・メディカル・ニーズの高い疾患です。薬理学講座では、下記の研究テーマを通して神経変性疾患の新たな治療法開発に寄与することを目指しています。

筋萎縮性側索硬化症(ALS)の病態解明と治療法探索

ALSは運動神経の変性・筋肉の萎縮を特徴とする難病です。当研究室では、ALSモデルマウスを用いた様々な解析により、新たな観点からの病態メカニズム発見や、創薬ターゲットとなりうる因子の同定を目指しています。

グリアリンパ系とALS

ALSでは毒性タンパク質の凝集・蓄積が神経変性を引き起こすことが知られています。近年、中枢神経系での「ゴミ処理システム」としてグリアリンパ系という脳内の水の流れが関与していることが報告されました。当研究室ではグリアリンパ流の評価方法を確立し、毒性タンパク質の動きを追うことで、グリアリンパ系がALSの病態形成に与える影響を検討しています。

グリアリンパ系とALS

免疫系とALS

近年、神経学と免疫学を融合させた神経免疫学が発展しており、神経変性疾患でも免疫系の関与が報告されています。ALSの病巣は中枢側(脳・脊髄)ですが、末梢側での免疫システムの異常も神経変性に関わる可能性が考えられます。そこでALSモデルマウスの免疫状態を解析することで、様々な免疫細胞や関連因子が病態メカニズムに与える影響を検討しています。

免疫系とALS

運動神経-筋肉連関の生理学的研究

神経筋疾患で有効な治療薬が少なく予後が悪い背景として、運動神経と筋肉の相互作用メカニズムが詳しく解明されていないことが挙げられます。当研究室では運動神経でのみ遺伝子組み替え可能なマウスを用いることで、運動神経支配を失った筋肉が起こす変化や、新たな運動神経マーカーの発見に取り組んでいます。

運動神経-筋肉連関の生理学的研究

CRISPR/Cas9遺伝子編集技術の改良検討

CRISPR/Cas9システムは高精度かつ扱いやすいゲノム編集ツールとして、2020年にノーベル化学賞を受賞した技術です。研究用途のみならず遺伝子治療など医療分野への応用が期待されていますが、課題として標的以外へのオフターゲット編集や遺伝子編集効率の低さが挙げられています。当研究室では遺伝子編集時の修復機構に着目し、これら課題の克服に取り組んでいます。

CRISPR/Cas9遺伝子編集技術の改良検討