抗がん剤の効果・副作用に関する分子生物学と、がん治療への応用

化学療法学講座の研究の中心は、抗がん剤とがん治療です。近年、がんの生物学が大きく進歩し、がん細胞に特異的な生存と増殖のメカニズムが明らかになってきました。こうした知見をもとに、多くのがん分子標的治療薬が開発され、臨床の場でめざましい成果をあげています。現在では、多くの製薬企業ががん分子標的治療薬の開発に参入してきており、この分野の研究は世界中で非常に活発化しています。今、がんは、分子レベルで治療を考える時代になっています。
がん治療の有効性と安全性を向上させるためには、新しい抗がん剤の開発と、抗がん剤の効果・副作用に関する研究が必須です。特にがん分子標的治療薬は一部のがんにのみ有効性を示しますので、その薬が有効ながん・有効な患者を特定することが重要です。これがバイオマーカー研究です。
また私たちは、エネルギー依存的に種々の薬物・生理活性物質を細胞外に排出する抗がん剤排出トランスポーター(ABC輸送体)について多くの研究を行なっています。ABC輸送体は、がん細胞の抗がん剤に対する抵抗性の獲得と、正常臓器での抗がん剤の分布・排泄の両方に働きます。ABC輸送体は、造血幹細胞などの種々の正常の幹細胞に発現しており、幹細胞を種々の生理的刺激物質から保護していると考えられていますが、がん幹細胞にもABC輸送体が発現しています。がん幹細胞の理解とその制御は、現在のがん研究の大きな課題となっています。
基礎研究は、応用研究へと広がっていきます。化学療法学講座では、企業との共同での新薬の開発、ヒトゲノム解析研究、遺伝子治療の臨床研究、再生医療など、実際の治療に役立つことを目指して、研究を行っています。