構造生物学:生命現象(タンパク質機能)のメカニズムを、分子の立体構造の観点より、原子レベルで解明する
創薬科学:AIなどのIT技術を駆使し、タンパク質機能を制御する低分子化合物を創出する

生命機能物理学という講座名には、講座の最も大切な目標が織り込まれています。すなわち、
「様々な生命現象を担う生体高分子(主にタンパク質)の機能発現メカニズムを、核磁気共鳴(NMR)法やX線結晶解析といった物理学・量子化学的な解析手法により、生命現象のメカニズムを原子レベルで解明する」という目標です。
さらに、「機能発現メカニズムに基づく新規創薬戦略を構築」するとともに、AIなどのIT技術を駆使して「タンパク質機能を制御する低分子化合物の創出」し、革新的創薬を実現することを目指しています。

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現在、研究対象(関連する疾病・治療薬)は、電位依存性イオンチャネル(不整脈、疼痛、糖尿病、乾癬、アレルギー、不妊治療)、ウイルス表面タンパク質とヒト細胞上の受容体の相互作用(ウイルス感染機構とその阻害薬創製)、細胞内での疾病に関わるProtein-Protein Interaction (PPI)(がん、細胞増殖、ウイルス感染)など多岐に渡っています。
これらのタンパク質は、リガンドの結合や膜電位の変化といった刺激により、立体構造や運動性・相互作用が変化します。薬物の結合によって、タンパク質の機能が変調を受け、正常な生理機能を回復したり、機能不全や過剰亢進を抑制したりできれば疾病の治療へと繋がります。また、ウイルスがヒトの細胞に侵入する際に重要な、ウイルス表面のタンパク質とヒト細胞表面上のタンパク質との相互作用を薬物で阻害できれば、ウイルス感染症の対する薬を作ることができます。
私たちは、これらの研究を通じて、革新的な薬剤を創製し、人類の健康に寄与することを目指します。

最近の研究より:
イソギンチャク由来ペプチド性毒素による電位依存性K+チャネルhERGの阻害機構の解明

心室筋に多く発現する電位依存性K+イオンチャネルhERGは、心筋の活動電位の再分極において中心的な役割を果たしており、正常な心臓の拍動に重要な役割を果たしています。hERGが阻害されると重篤な不整脈が惹き起こされることが知られていますが、最近、不整脈を起こさないhERG阻害剤によって悪性脳腫瘍に対する有効性が報告されており、hERG阻害剤は医学・薬学的に注目されています。(hERGの立体構造外部サイトへリンク←WebブラウザでhERGの立体構造を見ることができます!)
私たちは、イソギンチャク由来ペプチドであるAPETx1のリコンビナント体の調製に成功し、その立体構造外部サイトへリンク(←WebブラウザでAPETx1の立体構造を見ることができます!)を決定するとともに、hERGおよびhERG変異体に対するAPETx1およびAPETx1変異体の阻害活性を電気生理学的に解析することにより、hERG-APETx1相互作用に重要なアミノ酸残基を同定しました。
さらに、これらの結果を反映する複合体構造モデルを構築したところ、APETx1は従来法では明らかにされていなかったhERG上の部位に結合する外部サイトへリンク(←Webブラウザで複合体モデルを見ることができます!)ことが示唆されました。
本研究の成果は、以下の論文として報告しました。