生命の基本原理である『DNA修復応答』を知り、
根治に向けた新しいがん治療を開発する

実は、人の体の中にあるDNAは、毎日たくさん傷ついています。しかし人は、その傷ついたDNAを正確に復元する力「DNA修復」という能力を持っています。私たちの研究室ではDNA修復を一つの学問として捉え、その仕組みを解明し、新しい医療方法を開発することで、人類の健康増進に貢献することを目指しています。
人の体の設計図であるDNAをきちんと治せるかどうかによって、人の健康が維持できるかどうかが決まってきます。そのため、私たちは「DNA修復」という反応を詳しく知る必要があります。そこで私たちは、細胞がどのようにして最適なDNA修復方法を選択し、DNAを正しく維持しているかを解明しようとしています。特に超高解像度顕微鏡、次世代シーケンス、ゲノム内の狙った場所にDNAの傷を作る遺伝子改変など、新しい技術を駆使することで、DNA修復の全容解明に挑戦しています。
がん治療の場面において、DNA修復は非常に深く関わっています。実は多くの化学療法剤や放射線治療は、がん細胞にDNAの傷を発生させることでがん細胞を死滅させます。がん細胞であってもDNAの傷を治そうとDNA修復反応が起こることが知られています。つまり、がん細胞のDNA修復が効率的に起きてしまうと、がん細胞は生存し、再発に繋がります。近年、"がん治療時に起こるDNAの傷"が細胞内に色々なシグナル伝達を与え、体内の免疫活性化を引き起こすことが明らかになってきました。私たちの研究室では、DNAの傷が生じた際のシグナル伝達を詳細に解き明かすことで、がん細胞を殲滅させるための免疫効果を最適化し、最も効率の良いがん治療の開発を実現したいと思っています。

代表論文

DNA修復経路に関わる代表論文(柴田が責任または筆頭著者)
  • G1期細胞における転写共役型DSB修復機構 Yasuhara et al., Cell Rep, 2022
  • 転写活性領域における相同組換えの開始機構 Yasuhara et al., Cell, 2018
  • G1期細胞におけるDSB修復経路選択機構 Biehs et al., Mol Cell, 2017
  • 53BP1脱リン酸化を介した相同組換え環境への移行 Isono et al., Cell Rep, 2017
  • MRE11依存的な相同組換え開始機構 Shibata et al., Mol Cell, 2014
  • G2期細胞における基本的なDSB修復経路選択ルール Shibata et al., EMBO J, 2011
DNA損傷応答と免疫リガンド発現に関わる代表論文(柴田が責任著者)
  • DNA損傷依存的な新規ネオアンチゲン産生経路とHLA Class I提示 Uchihara et al., Mol Cell, 2022
  • 塩基除去修復欠損によるPD-L1発現上昇制御機構 Permata et al., Oncogene, 2019
  • DSB修復欠損によるPD-L1発現上昇制御機構 Sato et al., Nat Comm, 2017