臨床的な意義のある発見は、
日常のふとした疑問から生まれます。

薬剤師は、患者さんとの会話から困りごとに気づいて、それを解決する仕事。
ですから、日常の業務の中で小さな異変を感じ取ったり、
「これは何だろう」「どうしてこうなるのだろう」と疑問に思うことが重要です。
私が論文に書いた「リネゾリドと吐き気の関連性」は、
日常の疑問を深く掘り下げていった結果、生まれたものだと思います。
皆さんもどうか、頭に浮かんだ疑問をそのままにしないで、
自分で調べる習慣を身につけることをおすすめします。
そういう姿勢が薬剤師という仕事にきっと活きてくると私は信じています。

2013年 薬学部薬学科卒業 北海道大学病院 薬剤部 勤務

堤 竹蔵(ツツミ タケゾウ)

(2023年11月現在)

堤 竹蔵(ツツミ タケゾウ)

患者さんから感謝される父の姿がきっかけで薬剤師の道へ。
卒業後は、幅広い学びを求めて、北海道大学病院へ。

私が薬剤師を志したのは、父母ともに薬剤師で、どういう仕事なのかを幼い頃から知っていたからだと思います。患者さんから感謝されている父の姿を見ると、薬剤師って素敵な仕事なんだと子どもながらに漠然と感じたものです。
高校生になり、進路を決める頃になっても、やはり薬剤師志望でした。数学には苦戦していましたし、むしろ国語の方が得意でしたが、例えば文系の学部に進んだとしても自分がどんな職業に就くのか、全くイメージできなかったんです。結局、選んだ進路は、父や周りの方から卒後教育がしっかりしているからというお奨めの言葉もあり、慶應と合併することが決まっていた共立薬科大学へ。私が在学中に合併となり、慶應の薬学部薬学科に籍を置くことになりました。在学中はひたすら勉強というより、サークルに入ってバレーボールに打ち込んだりして、他の多くの大学生と同じようにキャンパスライフを謳歌していました。
卒業後は、バレーボール部の先輩で、先に北海道大学病院に就職していた今井俊吾先生外部サイトへリンク(現:慶應義塾大学薬学部専任講師・医薬品情報学講座所属)から声をかけていただき、北大病院へ。病院か調剤薬局かの二つの選択肢が思い浮かびましたが、大学病院なら幅広く勉強できるのではと考えました。北海道はバイク乗りの聖地と言われ、また雪質の良い土地でもあるので、趣味のバイクとスノーボードが楽しめるかなという思いもちょっとありましたね。

堤 竹蔵(ツツミ タケゾウ)画像1
大学時代、バレーボール部(薬学部)の仲間達と

患者さんと接する病棟業務を経て、現在は注射薬調剤室へ。
困りごとを解決する際の苦労から、研究の重要性を実感。

北海道大学病院薬剤部の業務を大別すると、注射薬の保管や処方箋に基づく調剤、病棟への供給を行う「注射薬調剤室」、内服・外用薬の保管や調剤を行う「調剤室」、院内製剤や抗がん剤の無菌調製などを行う「製剤室」の3つとなり、私は現在「注射薬調剤室」に配属されています。
現在に至るまでの話をしますと、就職した頃は北大病院が病棟業務を拡充していく時期で、私も2年目からは整形外科病棟で4年間、皮膚科病棟で3年間、勤務しました。その後、たくさんの後輩たちが入ってきたので、病棟業務の役割は彼らに譲り、今は処方箋を通じて患者さんと向き合う仕事をしています。これまでに多くの患者さんと接し、いろいろな経験を積むことができましたが、そのすべてがまさに今、力を注いでいる研究に役立っていると思います。
患者さんが困っていることを解決できる手段として、どういうものがあるのか。薬剤の添付文書から読み取れる情報はありますが、やはりわからないことは多いです。論文を片っ端から調べていっても、それでもわからない時があります。そんな時、研究の重要性を痛感します。

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抗菌薬のリネゾリドと吐き気の関連性を継続的に研究。
患者さんの困りごとを解決したい、その思いが研究の推進力に。

リネゾリドという抗菌薬を投与された入院患者さんの中には、吐き気を催す方がいらっしゃいます。添付文書を見ても吐き気に関する情報はなく、同様の研究もないので、ならば本当にリネゾリドによって吐き気が誘発されるのかを自分で検証しようと思い立ちました。具体的には、電子カルテを参照し、抗菌薬と吐き気の有無の関連性を調べて、リネゾリドと吐き気が起こった報告のない薬剤とを比較検証してみました。それが、大学院に入る前に手がけた最初の論文になりました。
次の論文は、リネゾリドによって実際に嘔吐した方を対象に、どんな人が吐き気を催しやすいのかを調べたものです。こちらもデータソースは電子カルテで、北海道大学大学院の社会人大学院生として、国際誌に発表しました。
そして現在も北大病院薬剤師と大学院生という立場で、同一テーマによる3本目の論文を執筆中です。特定の骨の感染症にリネゾリドを使うのですが、吐き気がする、食事ができないと訴える患者さんが多く、メトクロプラミドのような一般的な制吐剤が効かないケースも多かったんです。では、いったいどういう機序を経て、そういう結果になっているのかを突き止めたいと考えました。そこで、最初の論文と同様に、リネゾリドと他の薬剤を比較し、今回は、電子カルテではなくレセプトデータベースという医療ビッグデータを使用しました。
論文を手がけて思うのは、臨床において意義のある発見は、患者さんやドクター、看護師の皆さんとの対話に含まれるふとした疑問から生まれるのだということ。そして、患者さんの困りごとを解決したいという思いが、研究の推進力になるのだということです。

疑問をほったらかしにしない人が、薬剤師に向いている人。
おもしろい仕事だから、安心してめざしてほしい。

薬剤師は、患者さんとしっかり話して、何に困っているのかをきちんと聞いて、その困りごとを解決する仕事です。私の父もそうでしたが、解決の結果、患者さんから直接ありがとうと言ってもらえることもあります。つまり、薬剤師というのは、薬剤の安全性や医療への信頼性を患者さんに実感していただくためにある仕事だと私は考えていて、そこにやりがいがあるのだと思います。
ですから、疑問に気づける人、浮かんだ疑問をほったらかしにせず、自分で調べる人は薬剤師に向いています。薬学的なことでなくていいのですが、日常生活の中で「何だろう」「どうしてだろう」と感じたら、是非すぐに調べてみてください。そういう姿勢が、薬剤師という仕事にはきっと活きてくると思います。
薬剤師は、おもしろい仕事です。今めざしている人は、安心してその道を進んでいってください。応援しています。