患者の言葉から薬の情報を得る

病院薬剤師の経験と薬の体での作用の仕方に関する基礎研究の経験を持つ堀 里子 教授は、
現在、患者視点での情報を広く集めて生かす方法を模索しています。
患者の治療をより良くするための情報は、患者の日々の暮らしの中にも
埋もれていると考えているからです。薬とは一見関わりが無いような情報群から
薬にまつわるデータを集める意味を伺いました。

薬学部 医薬品情報学講座 教授

堀 里子(ホリ サトコ)

2022年12月現在

堀 里子(ホリ サトコ)

撮影:慶應義塾大学薬学部

育薬情報を探し出す

「治療の最適化を実現したい」。そのためには創薬と合わせて、"育薬"も重要だと堀教授は言います。薬は世に出て使われてから副作用や効能効果などが見つかることがあります。それら新たな情報により、薬をもっと正しく安全に使えるよう進化させることを"育薬"と言います。
病気や体調を調べるための血液検査などのデータに加えて、患者や医療者が話したり書いたりする言葉(診療記録など)も薬の効果や副作用を捉えるための重要な情報源のひとつ。ただ、人手による大量の言葉の解析は難しく、十分に生かされてきませんでした。最近、言葉を機械が理解できるようにする"自然言語処理"の研究が進み、多くの言葉から育薬情報を探し出し、データ解析に活用することが可能になりました。治療の最適化の実現をさらに一歩進める研究が進行中です。

堀 里子 (ホリ サトコ)画像2

撮影:慶應義塾大学薬学部

生活に寄り添った医療にする

堀教授は、自然言語処理により患者がソーシャルメディア等の場面で発した言葉を情報源として、薬の副作用や治療上の悩み、患者QOL※の情報を探し出すモデルの構築も進めています。医療者には届きにくい情報をすくい上げるのです。大量の記事から薬や治療にまつわる記述を探す教師データの作成には、豊富な薬学の知識に加え、患者とのコミュニケーションの経験値が問われます。
現在、このモデルの役立て方を患者との対話を通して検討し、患者を早期に適切な医療や社会支援につなげることを目指しています。「薬剤師としての専門性と、異なる分野の研究者や患者と協働できる研究・実践力を兼ね備えている薬学研究者の視点が生きる研究です」。患者の症状や困りごとに寄り添い、実臨床に応用できるようになってこそ、治療を最適化できると堀教授は言います。

※QOL (Quality of Life(クオリティ・オブ・ライフ)の略称。「生命や生活の質」などと訳される)