予測を予測のままにしない

鼻や腸など常に体の外と接している器官の粘膜面では、
細菌やウイルスに対する防御を担う免疫のしくみが発達しています。
この機能を解明することは、新しい治療薬や治療方法の開発に重要です。
実は眼にも免疫機能が存在しますが、詳細はよくわかっていません。
大谷さんはこの眼の免疫機能に注目し、研究に取り組んでいます。

薬学研究科 薬科学専攻 後期博士課程1年

大谷 祐貴(オオヤ ユウキ)

2022年12月時点

大谷 祐貴(オオヤ ユウキ)

撮影:慶應義塾大学薬学部

未知なる免疫の世界を解き明かす

眼では、抗体や抗菌成分を含む涙が、粘膜面の異物を洗い流す働きを担っています。涙が鼻腔に流れる途中には涙道関連リンパ組織(TALT)と呼ばれるリンパ組織が発達していて、外界から侵入してくる異物に備えています。しかし、この組織は頭蓋骨内の複雑な部分にあり正確な位置を特定することが難しく、詳しい研究が進んでいませんでした。大谷さんらは、マウスからTALTだけを取り出す技術の確立に成功。実際に単離したTALTを用いて詳細な解析を行い、粘膜免疫で重要な細胞であるM細胞の存在を決定づけたのです。M細胞は、細菌やウイルスを取り込み免疫応答を開始させる役割を持ちます。腸での働きは有名ですが、TALTではその存在が推測されるにとどまっていました。今回、TALTだけを取り出してM細胞の目印となるGP2やSox8などの分子を確認したことで、眼で働くM細胞の存在を初めて証明することができたのです。

大谷 祐貴 (オオヤ ユウキ)画像1
講座(研究室)での実験風景 『someone2022冬号 vol.61』より転載

研究を通して、多くの人を救いたい

「ひとつひとつの細胞がお互いを認識し、緻密な役割を担っている免疫システムはとても興味深い」と目を輝かせる大谷さん。複雑な免疫のしくみは、研究も一筋縄ではいきません。予測を裏切られることもしばしばです。そんなとき、先行研究と照らし合わせ、仮説検証を繰り返しながらひとつひとつ事実にせまっていく過程が面白いそうです。大谷さんは、大学が独自で設置している「修士-博士一貫コース」に所属して早い時期から本格的に研究をスタートし、成果を論文にまとめて学会で発表するなど、研究を加速させています。最近はTALTにおいてM細胞を増やす方法を明らかにし、その働きの重要性を明らかにしました。「免疫応答の研究を進めて、花粉症など多くの人が困っている症状の治療方法や薬の開発に役立てたい」と語る大谷さん。着実にその步みを進めていくに違いありません。

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撮影:慶應義塾大学薬学部
Q.あなたにとって薬学とは?
A. 様々なからだの仕組みの結晶