DNA修復のしくみを
治療に活かす

私たちのからだの設計図である DNA。
そのDNAは絶えず傷つき修復されています。
この修復のしくみを解き明かすことはがんの治療法の開発につながります。
柴田 淳史 教授は、がんを治して多くの人の命を救いたいとの想いで、
生命の基本原理となるDNA修復のしくみを
解き明かすことに長い間没頭してきました。

分子腫瘍薬学講座 教授

柴田 淳史(シバタ アツシ)

(2024年12月現在)

柴田 淳史(シバタ アツシ)

撮影:慶應義塾大学薬学部

体内で起きることを細かく想像する

「私たちのDNAは、こうして話している間にも傷つき、切れてしまうことがあります。それでも生き続けられるのは、それを修復するしくみが身体に備わっているからです」。 
1 日に数千〜数万か所のDNA損傷が起きています。DNA修復のしくみは、これまで知られていないあらゆる可能性を想像し、考えられていなかった仮説を検証していってこそ解き明かされていきます。柴田教授は、修復の経路がひとつではなく、細胞がたくさんの経路からなぜその修復経路を選んでいるのかその様子を明らかにしています。この新しい考え方も概念の提唱でした。DNA修復のしくみをひとつひとつ解き明かせば人の命をつないでいける、そう柴田教授は考えています。柴田教授は、身の回りの道具、たとえば電源コードや文具をDNAや細胞に見立てて動かしながら、細胞内で起きていることに想像を働かせることで、新たな概念を生み出そうとしています。

柴田 淳史 (シバタ アツシ)画像1
撮影:慶應義塾大学薬学部

がんを治す薬につなげる

がん研究は臨床検体を使うことが主流。柴田教授は、検体を使うだけではなく、臨床と基礎をつなぐことでがんの治療に貢献しようと研究を進めています。がん細胞を破壊する放射線療法では、放射線がDNA損傷を起こすだけでなく、異物をやっつける免疫応答のしくみを誘導してがん細胞自体を破壊させることを、柴田教授たちの研究グループは見つけました。また、放射線療法の後に、がん細胞が免疫応答から逃れるしくみを遮ると、高い割合でがんが治ることも見つけています。それでも治らない患者さんがまだいます。がん細胞が免疫応答から逃れる方法が他にもあるということです。柴田教授は、その方法を見つけようとしています。「日々、細胞のなかでDNAの損傷と修復がくり返されているしくみの解明こそが、治療へとつながるのです」。想像力を全開にして仮説検証をくり返しながら、柴田教授の挑戦は続きます。

柴田 淳史 (シバタ アツシ)画像2
撮影:慶應義塾大学薬学部
Q. あなたにとって薬学とは?
A. からだのしくみを知り、命をつなぐこと