効能・効果が承認された薬は、世に出て患者さんの服用例が増えていきます。
薬の服用例が増え、そのデータが蓄積すると、使用にかかわるデータを調べることで
薬による良い影響、悪い影響を評価することができるようになります。
そこで、病気の程度や体質の違う患者さんによる薬の効果の違いを考慮しつつ、
安全性や有効性を評価するのが「薬剤疫学」です。
この領域の第一人者である漆原 尚巳 教授はどのような方法を使って研究を進めているのでしょうか。
医薬品開発規制科学講座 教授
漆原 尚巳(ウルシハラ ヒサシ)
(2023年12月現在)
薬の承認後には、その処方歴や病気の経過など、たくさんの診療データが蓄積します。 そのデータは長らく研究目的では活用されていませんでした。「いろんな見えない影響を排除し、見たいものだけ見えるようにして、結果が予想と合っているとすごく嬉しい」。 漆原教授は日本でこのような大量の診療データを疫学応用しようとした先駆者のひとりです。きっかけは、薬局の方との「ある薬の副作用を検証したいね」という会話から。その後、次々に診療データを活用した効果検証を手がけました。宝箱を前にした子どものような気持ちでした、と楽しそうに話してくれました。薬剤疫学では、比較を行うための条件をそろえて薬の効果を正しく導けるようにする手法を開発しています。風邪を引いた時、薬を飲めば誰でも同じ効果がでるわけではなく、年齢や健康状態などひとりひとりの状態は違いますし、 薬の作用に関係する要素はたくさんあるのです。
お互い似通った身体の体質や状態で薬を飲む人と飲まない人を比べてこそ、薬の効果が明確にわかります。では、類似する人をどのようにグルーピングすればいいのでしょうか。例えば、インフルエンザワクチンの効果を調べたい時、ワクチンを接種する確率というものを計算し、それが同等になる50%なら50%の人同士で、ワクチンを受けた場合と受けない場合とを比べます。同数値の接種確率になる身体的特徴が類似する人たちの間で比較することで、その人の特徴に依存しない普遍的なワクチン接種の効果が見えるようになりま す。「この『傾向スコア』という手法が日本でも広まってきましたね」と漆原教授。今後は、ありとあらゆる薬の副作用を予測したいそうです。時代の変化と共に、科学にも進歩があり、そして人を取り巻く病気自体も変わります。より安全で効果的な薬をいち早く届けるため、評価方法そのものの研究にも挑み続けています。