薬剤師というライセンスを活かせる場所は、
世界中どこにでもある。

薬剤師は、薬局や病院の中で働く仕事。
もちろん、多くはそのイメージだと思いますが、
私はそれだけではないと考えています。
薬剤師という国家ライセンスを持った上で、薬の専門家としての知見を活かし、
企業で、省庁で、あるいは海外で活躍することもできます。
ぜひ一度、広い視野で「薬剤師」という職業を考えてみてください。

薬学部 医療薬学・社会連携センター
医療薬学部門 教授

鈴木 小夜(スズキ サヨ)

2021年11月時点

鈴木 小夜(スズキ サヨ)

ガイドラインに沿った治療では改善しない
患者さんを救えないだろうか?

私はもともと薬剤師ではなく、研究職を志していましたが、大学院で、大学病院の中にある薬剤関連の研究室に所属してからは、臨床の現場に興味と危機感を持つようになりました。医学の常識を薬剤師がわからないケースも時にあり、逆のこともありました。薬が投与される体内の仕組みの基礎知識をきちんと理解していなくては本当にその疾患に合った薬で治療することはできないと痛感。「基礎」と「臨床」は切り離せず、真に「臨床」を極めるためには「基礎」の理解が重要なのだと実感しました。就職先として大学病院の薬剤師を選んだのは「薬剤師の仕事をする」「基礎・臨床研究をする」の両方ができると考えたからです。
今は、根拠に基づいた医療が基本であり、さまざまな疾患に対して、標準的な治療ガイドラインがあります。それに沿って治療を進めれば、だいたい7割から9割の患者さんでは改善が期待できます。しかし、それで満足していいのでしょうか。残された1割から3割の患者さんはどうするのでしょう。私の研究のベースは、こうした「標準的な治療では改善しない患者さんをどうにか救いたい」という薬剤師として働いていた頃に芽生えた思いにあります。「何故、薬が効かないのか、体の中で何が起きているのか、どのように薬を使えばこの患者さんに効果的な治療をすることができるのだろうか。」この難しい課題にこそ、薬の専門家である薬剤師が腕を発揮するべきだと考えます。そのためには、体の中の仕組み、薬がどのように効くのかといった基礎科学の力が欠かせないのです。

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より良い薬物治療を実現するためには、
「研究」と「教育」の両方の追究が必要。

私の研究のゴールは「より良い薬物治療の実現」であり、そのために「基礎研究・臨床研究」と「薬学教育」の両軸を追究しています。良い薬が開発できたとしても、それをきちんと運用できる優れた薬剤師がいなければ、意味がありません。薬に関わる基礎研究・臨床研究とともに、優れた人材の育成も同様に重要です。
私が現在携わっている研究としては、「個別化医療」「がん化学療法」「ドラッグリポジショニング」などがあります。まず、個別化医療ですが、主に標準的な方法では治療が困難な患者さんのための研究です。例えば、特殊な患者さんの病態を細胞実験や動物実験で再現し、その環境で薬の効果を確認し、またタンパク質や遺伝子を調べて薬の効果と関連する原因を調べます。あるいは、患者さんの実際のカルテを調査し、効果や安全性を検証することもあります。
また、がんの新たな薬剤の開発にも携わっていて、今は、がん細胞を使った基礎的な実験を繰り返しています。さらに、既にある疾患に対して使われている薬剤を別の疾患に応用するドラッグリポジショニングの研究も進めています。既存の薬はもう、ある程度の安全性が保証されていますから、新薬を開発するよりは短期に臨床へ還元できるのでは、と思っています。
これらの薬の研究と並行して、「薬学教育」にも注力しています。「良い授業とは、どういうものだろう」と考えた時、教わる側からすれば合格などの結果(単位)が得られればよいと思ってしまう場合もあるかもしれません。しかし、本当に「良い授業」とは何か。それは、教えたこと、つまり学んでほしいことがきちんと学生の身についている授業です。あるいは、点数は高くなくても「おもしろい授業だった、もっと勉強しよう」と学生の意欲を高められれば、その授業は成功だと考えていいと思います。そこで今、取り組んでいるのは、学修効果を高める研究です。教育心理学的手法なども取り入れながら、例えば学生にアンケートに答えてもらい、その回答を統計解析の手法で分析します。課題となる因子を抽出し、その結果を次の授業に活かしながら、改善を進めています。

国際的に通用する薬剤師としての知見を得てほしい。
そんな願いを込めた、グローバル教育プログラム。

あらゆる患者さんにより良い薬物治療を提供するために、薬の専門家である薬剤師の貢献は欠かせません。さまざまな場所で、その知見は求められるでしょう。病院や薬局とは限りませんし、日本国内だけとも限りません。これから薬剤師の資格取得を目指す人には、どうか視野を広く持ってほしいと思います。
慶應義塾大学は文部科学省のスーパーグローバル大学の一つに指定されており、薬学部もグローバル教育プログラムに力を入れています。例えば「海外アドバンスト実習」では、海外協定校の関連病院で臨床実習を行いますが、教員の引率はなし、学生だけが渡航して、現地で臨床研修を受けます。これは見学ではありません。現地の指導者の元で学生が一人で患者さんのベッドサイドへ行ったり、治療計画を立てたりします。こういう海外での体験学習を活かして、医療の現場はもちろん、研究、企業や行政など幅広いフィールドで活躍してほしいという願いが、このプログラムには込められています。ぜひ多くの学生にこの貴重な体験を通して学び、国際的視野を持ち、先導的に活躍する人材になってほしいと思います。

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