
座談会には収録しきれなかった在学生の質問に卒業生・教員が答えました。
人生の岐路に立った時、自分の考えとは異なるアドバイスをもらった時、
先輩達はどうやって道を切り拓いてきたのでしょうか?
そこには、在校生の価値観を広げる答えがありました。
左から、郷さん(在学生)、杉本さん・松浦さん・三浦さん(卒業生)、地引助教(教員)
参加者の所属・インタビュー内容は取材当時(2024年3月)の情報です。
郷 価値観が同じ人がそばにいるのであれば、心強いと思います。では、価値観が自分とちょっと違う人が良かれと思ってアドバイスをくれた場合、皆さんはその言葉に対し、どういう反応をしましたか?
地引 父は、女性がバリバリ働いて生きていく、というイメージを持っていなかったようですが、母はこれからの女性はどんどん仕事するべきだし、結婚だって別にしなくてもいい、何ならお金を貯めて生涯一人でも生活できるようにしなさい、という考えの持ち主でした。私は相反する意見のうち、母の方を選んで、仕事に関してはその通りに進んできました。自分とは違うな、と感じる意見はスーッと受け流していましたね。言い合っても解決しないし、他人の意見を変えることはできないと私は思います。郷さんが自分できちんと生活している姿を見せて、ちゃんと頑張っているんだと発信できたら、周囲の方々も安心してくれるんじゃないでしょうか。
三浦 私は、周りに反対されたことはなかったんですが、ただ祖母だけが女性は手に職をつけなくてもいい、家庭に入った方がいいと言いましたね。祖母の考えも間違いではないと思うし、家庭に入ると決めてもいいんです。今の世の中は様変わりしていて、多様な生き方から自由に選んでいいはずです。大事なのは、自分がどうしたいか。そこがブレなければいいんだと思います。
杉本 じつは私、2人目の出産後は、育休を取らずに産休後すぐに復職していたのですが、そのことで周りからいろいろなご意見をいただいたんです。「1歳になるまでは子どもたちと一緒にいた方がいいんじゃない?」「そんなに早く保育園に入れていいの?」といった声を聞くたびに「そうですね」と相槌は打つものの、内心少しモヤモヤしていました。私は、自分のキャリアを考えた上で、今は休みたいと思わない、それよりも仕事を頑張りたいと結論を出したから、育休なしで復職したんですね。自分の考えを話すと、夫は納得してくれて、夫が育休を取ってくれました。ありがたいです。自分の決断を信じて、後悔しない選択をすることが、今まで私がずっと心がけてきたことです。
松浦 私はきっと恵まれていると思うんですが、人と意見がぶつかったことがあまりなく、今までずっと私がやりたいように進んできたと思います。研究開発という仕事柄、メンバーの価値観が違う、いろいろな意見が出てくるというのはよくあることで、多くのアイディアが出た方がいいわけですから、むしろ歓迎すべきことです。人と自分の考えが違うことをポジティブに捉えて、そこを認めた上で、ではどうやって進めるかを協議していきます。
郷 私は、身近な人の意見をスーッと受け流せなかったですね。むしろ、かなり影響を受けてしまうかもしれません。ただ、本当に自分がやりたいことが見つかったら、それは貫くべきだとも思っていますが、貫けるかどうかはその時になってみないとわからないのが本音です。
松浦 やってみてうまくいかなかった場合と、やらなかったことを後悔する場合。この2つをぜひ考えてみてほしいです。私自身は、やってみてダメでもいいと考えて、やるタイプです。ダメだったとしても、その結果を受け入れることで、自分の気持ちが落ち着きます。もし、郷さんが将来、自分のやりたいことで悩んだ時は「それは、諦められることなのか?」をよく考えてください。「もういいや」と諦めがつくか、「やっぱりやってみたい」と思えるか。どちらかを見定めて、判断するといいと思います。
郷 ありがとうございます。
地引 大学の6年間までは制度に決められているかもしれないですけど、卒業から先は自分で決めるわけですから、好きなように進めばいいんだと思います。
郷 結婚は30歳までにしたい、という女性の声を聞くと、自分なら24歳で卒業して残り6年で決めないといけないのか、博士課程に進んだら残り2年になるのか、というふうに考えていたんですけど、そうだと限らないと今日、知ることができました。必ず30歳までに結婚しなければいけないわけではないし、そういう制限はいらない。自分のやりたいことをやりたいようにやっていく、そういう世界があるんだと気づいたことが、大きな発見でした。
地引 ただし、女性医療に携わっている身としては、出産だけは年限があることを意識していてほしいです。医療が進歩しているとは言え、年齢を重ねると身体への負担は大きくなりますから、出産に関しては適正な年齢で、とは思います。やっぱり健康であることはとても大事で、絶好のタイミングが訪れた時に自分がすぐに動けるには心身のコンディションが整っていないと対応できないです。本学の学生の皆さんには、若いうちから健康に気をつけてほしいですね。
郷 コンディションを整えるという意味では、地引先生は、慶應義塾が主催している女性教員のためのメンタリング・プログラムに参加されたんですよね?
地引 このプログラムは、女性教員のエンパワーメントとリーダーシップの促進を目的に始められたものです。薬学部の中だけで働いていると、女性の先生方とゆっくり話すことがどうしても少なくなるのですが、こうして相談できる機会を作っていただけると、生活のこと、仕事のこと、子どものことなど女性ならではの悩みを打ち明けることができます。自分だけじゃない、他の先生方も同じように悩んで、何とかやりくりしながら解決しているんだ、と知ることができて、すごく励みになりましたし、良い体験ができました。
郷 女子学生だけじゃなくて、女性の先生方にも悩みがあるのですね。先ほど出産だけはタイムリミットがあることを知っておこうというお話をいただきましたが、他にもキャリアアップを考える上で何かタイムリミットはあると思いますか?
地引 一般的には、覚える能力は年々衰えていくものですから、資格取得は早いうちがいいかもしれません。必要だと思ったら「そのうちに」などと思わず、すぐ始めた方がいいです。40代になると、若い頃なら1週間で覚えられていたことが半月以上かかってしまったりしますから。
杉本 異業界や異業種への転職も年を重ねると難しくなる気がします。私は薬剤師資格を取得して、大学を卒業してから10年ほど経っていますが、今から病院や薬局などでの薬剤師業務をやろうと思ったら、かなり勉強し直さないといけないでしょうね。
三浦 海外への留学や転職も、家族ができると状況次第では諦めざるを得ないかもしれないですし、行きたいと思っているのなら早め早めが動きやすいと思います。
郷 「新しい挑戦は、できるだけ早めに」ということでしょうか。学生は、就職までは考えることができても、その先をイメージするのは難しいです。就職先でどんな仕事をするのか、どういう人生を送っていきたいのか。そういうことを思い描くのに、社会人の皆さんのお話はすごく参考になりました。
地引 やっぱり「自分は何をやりたいのか」を突き詰めて考えることに尽きます。就職面接でも、やりたいことが伝わってこない人は採用されにくいと思いますから。企業は「こういうことがしたい」という考えを自分の言葉で言える人を欲しがっています。そういう視点で、自分がやりたいことは何か、一度じっくり考えてみてください。
先ほどは女性教員のためのメンタリング・プログラムについてお話ししましたが、薬学部にはアドバイザー制度というものがあり、学生の皆さんには1年生の時からアドバイザーの教員がついていますよね。勉強のことだけでなく、留学や資格取得など学生時代に挑戦したいこと、将来のことなど、迷うことがあればどんなことでも相談していただきたいと思います。